ガルパンの大会出場校副隊長について・その2

 というわけで続き。プラウダと黒森峰です。聖グロとサンダースアンツィオ 戦車道ゲーム『ぱんつぁー・ふぉー!』

 

(2016/5/7追記:大幅に加筆修正したプラウダ考察を公開しました。)

 

3.プラウダ高校

 

 ガルパンの副隊長といえば、代表格はノンナ。それくらいの貫禄が彼女にはあります。DVDおまけ映像でプラウダの隊員の姿が豊かに描かれてましたが、副隊長と呼べるのはやはりこのノンナだけですかね。学園艦でダージリンをもてなしてるのもカチューシャのほかは彼女だけですし、試合中に別働隊を率いている副隊長格はいるのかいないのか分かりません。「ブリザードの」「地吹雪の」といった二つ名がついてるレベルの人は、さすがにいなさそう。

 カチューシャは前年度の決勝戦で黒森峰のフラッグ車(つまりみほの搭乗車)を撃破したそうですが、もともとの才能に実績が加わり、その自尊心が天井知らずといった感じ。実際にカチューシャの指揮能力や作戦立案能力は優れてますから、彼女を隊長に据えたワンマンチームになるのもやむを得ません。たぶん、自分が一番頭いいと思っていそう。一方で、カチューシャはそのちっこさにコンプレックスを抱いているようで、知性とは逆に幼い感情面とあいまって(ロシア的かどうかはさておき)暴君めいています。

 そこをフォローするのがノンナ。砲撃能力に秀で、冷静沈着でサポート能力も高そう。おまけに身長が高いので、カチューシャを肩車することで隊長のコンプレックスを一時的にせよ晴らせます。日常的にもカチューシャは、副隊長のノンナに感情を小暴発させることで安定を得られているようですし、また食事の面倒をみてもらったり子守唄を歌ってもらったりと、母性を感じてもいるようです。完全に子供ですね。しかもノンナの側もまた、趣味が「カチューシャ観察日記」であり……この、なんというか……ええ。お互いがお互いを必要としている格好でして……共依存? そこまではいかないですか。

 さて準決勝に登場した15輌のうち、3輌を序盤で撃破されるという展開ですが、これは隊長の想定内。フラッグ車を囮にし、2割の損耗を計算にいれたうえで、大洗女子を包囲殲滅しようという作戦です。みほも味方の損害を冷静に受け止めますし囮も用いますけど、カチューシャはもっと冷徹な思考を味方に向けてる気がします。天才であり昨年度優勝の立役者たる自分にひたすら従順、自分の思うとおりに操ることのできる駒。言うこと聞けなければ「シベリア送り」ですし。ただ、大洗女子を屈辱的な敗北にまみれさせるためとはいえ、降伏をつきつけて休戦してる間は隊員に焚き火を囲わせ食事をとらせるなどわりと自由にさせてますが、それらがみほたちの戦意を奪う策略でもある一方で、隊員の士気や体力を十分配慮していることも間違いありません。やはりロシアの支配者らしく、残酷さと寛大な温情が同居するというあたりが、隊員にとって畏怖・畏敬の対象となる生来の資質なのでしょうか。

 

 このカチューシャの指揮をサポートするノンナの働きですが、それは大きく分けて戦術面と感情面。戦術面については、試合中にカチューシャに確認をうながしてる場面などのように、隊長の指示の根拠を尋ねたり、隊長が見落としているかもしれない事実(「2輌ほど見当たりませんが」)や可能性を指摘したりして、部隊行動の方針を誤解のないようにする・万一の危険性を小さくする、などの働きです。これはまぁ真っ当な副隊長らしさ。

 もう一方の感情面ですが、これはさっき書いたカチューシャの感情のコントロールです。小さな隊長さんはすぐにカッカときますので、憤りをぶつけられる隊員も大変。そこでノンナが適当にガス抜きをしたり、カチューシャの身近にいて日常的なターゲットになったりすることで、他の者達をこっそり守っているわけです。これは組織を日頃から抑圧的にしないための重要な働きといえるでしょう。

 ただ、しかし……。ノンナはそういう理由に関係なく、たんにカチューシャを好きでからかってるフシがあります。口の周りに、とか何かつっつくたびに隊長が予想どおり噛み付いてくるわけですから、まぁ可愛くてやめられない。その内心が顔にでないからなおさらたちが悪いのですけど、たぶん夜中に自分の部屋でしか見せない表情で観察日記に綴ってるんでしょうね。

 

 また、カチューシャの癇癪から隊員を守っている体でいながらも、実態としてはつまり、ノンナは他の隊員を隊長に寄せつけないことに成功しているのでは……という疑念が拭えません。あるいはさらに一歩進んで、副隊長候補になりそうな隊員が出現したならば、ノンナは将来の憂いを断つべく何らかの手立てを講じているのではないか……と。カチューシャは声に出して「しゅくせーしてやる!」と叫びますが、ノンナは心のなかでのみそう呟くのです。というか、そう思ったときにはすでにそうしてる。

 なんといってもプラウダ高校ですからね、それくらいの権力闘争に勝ち残らないと昨年度の優勝記念写真から消されてしまいかねません。しかし、そう考えてみると、これは自隊内でのノンナの有利な立場を強化する一方で、部隊全体の能力をつねにカチューシャとノンナの統制範囲内に留め、隊員の自主的思考を抑圧することにもなってしまいます。隊員に純朴な子が多いのは、それがプラウダ学園の校風というだけじゃなくて、あんま頭良くないタイプの子しか残らないということの表れだったりしませんか。

 そうなりますと、ノンナがカチューシャに意見具申できているうちはまだしもですが(それさえ感情的になるとカチューシャは無視してしまう)、準決勝戦のようにノンナが敵フラッグ車を追撃し、カチューシャがそちらの指揮にかまけてしまうとなると、どうしても隊長の想定外に対して一方通行の指揮系統では間に合わなくなっちゃうのでした。しかもカチューシャは相手の策略をあらかじめ全てお見通しのつもりですから(そしてそれが合理的であり、予想外の展開にも即応できるあたりが彼女の凄いとこですが)、ある意味でサンダースのアリサと同じ罠に陥っちゃうのかも。

 

 結果的にプラウダの部隊は分散させられ、フラッグ車を奇策によって一瞬早く撃破されてしまったわけですが、それは、カチューシャという極めて優秀な隊長と、それを独特のやり方と目論見でサポートする副隊長とに依存する組織の、こういった弱点が出ちゃったためかな、と思います。だから、弱点がむしろ強みになるような作戦を立てていたならば、大洗女子の戦力では当然のことながらやはり勝利は難しかったはずです。例えば、カチューシャ搭乗車がフラッグ車だったなら、ノンナは敵を絶対に近づけさせなかったのではないでしょうか。カチューシャ自身が(じつにソヴィエト陸軍らしく)攻撃的な性格なので、守られるべき王様の役目はお断りかもしれませんけど、こういう状況ならノンナは黒森峰の全力攻撃さえはねのけるような気がします。

 まぁ自隊の問題点なんて存在するわけないと考えてるのがカチューシャなので、そもそもそこを逆手にとった作戦など思いもつかないわけですが。

 

 ボードゲームでは、プラウダのキャラクターユニットは当然カチューシャとノンナ。ノンナは副隊長ユニット中で最強の能力を誇ります。どれくらい優れてるかというと、長所のおきどころは違うけどカメさん(生徒会)チームに1人で匹敵するというか……。しかも裏面ありな唯一の「副官ユニット」というあたりも頭ひとつ出ています。これが「ブリザード」、恐るべし。

 

 

4.黒森峰女学園

 

 黒森峰といえば、まほとエリカです。他にも記憶に残る台詞を発した隊員はいろいろいますが、副隊長格となるとやはりエリカだけでしょうか。全車に指示を出してるのはこの2人だけですし。

 そう、エリカが全車に砲撃などの指示を下しているというのが、この副隊長の独特なところです。サンダースでもアリサが2輌に指示してましたし、アンツィオではカルパッチョが作戦実行を伝えてましたけど、砲撃という即応的な行動を全体に指示というのはなかなかありません。

 ここには、エリカの独断的・前のめりな性格が描かれているというよりも、いやその面もあるんでしょうけど、むしろ黒森峰が(あるいはまほが)副隊長にゆだねている役割が他校と異なるということが、示されているのだと受け取りました。まほはエリカの判断や指示をしばしば取り消しますが、それはエリカが拙速だったりまほとエリカの意思疎通が悪かったりするんじゃなくて、まず副隊長のエリカに全体状況を判断させて、問題があれば隊長のまほが適宜修正する、という教育プロセスを実戦のなかで行っているんじゃないでしょうか。なんかすんごい余裕かましてるみたいですけど、まほの修正は素早いですし、現実に戦力的な余裕はあるわけです。それでも勝てると油断してるのではなく、次の隊長候補であるエリカを育成することを視野に入れてのアプローチでしょう。

 ケイが語っているように黒森峰は「突発的なことには対処できない」のが弱点だとすれば、まほは昨年度の敗北を分析したうえで、次のように改善点を抽出したと想像します。1つには、隊員全員の自主性を伸ばす。しかし、これはそういう基盤のないところで短期間に実現できないだけでなく、下手をすると母校の伝統である規律正しい隊列行動能力まで駄目にしてしまう危険性があります。そこでもう1つの、突発的状況に対する正確な判断と指揮能力をリーダークラスに養う、というポイントが重視されることとなるという。まほ自身にはその資質が備わっているとしても、エリカたちはどうしてもまほの指示に従うクセを抜け切れません。となれば、訓練だけでなく試合の中でも、副隊長であるエリカに実地に学ばせていくというのが、まほの方針となったわけです。

 

 もっとも、ここで問題となるのは、まほという極めて優秀で評価も高く家柄も立派な隊長がいるおかげで、エリカも他の隊員もまほの修正を正解として理解してしまうことです。それはそれでコマンド&コントロールがうまくいってるということでもあるのですが、エリカたちから意見を吸い上げるということはしづらい。みほが良くも悪くも仲間の意見や気分を取り上げていくのに対して、まほはやはり自隊内で絶対的な存在であり続けています。

 その制約の中にあって、エリカのじつに立派なところは、気後れや萎縮することなく副隊長として判断し指示を下しているところです。とりわけ決勝戦ではみほへの対抗意識があるにせよ、試合中にまほからある意味でダメ出しし続けられるわけですからね。並の神経では耐えられません。まほに副隊長として認められたという誇らしさ、学園を離れたみほへの対抗心、そして勝利の伝統を取り戻すために成長しなければという意欲が、エリカを毅然とした副隊長の姿へと導いてきました。

 感情的な子なので、まほの冷静沈着さや切り替えの早さ(さすが妹とよく似てる)などは未だ習得できてませんが、内向きにならないで打たれ強く戦い続けられるのがエリカの持ち味であり、まほからすれば昨年度のうちに妹にも見出したかったものだったんじゃないでしょうか。その一方で、エリカは目の前の戦況にとらわれすぎるという短所があるので、みほがそのへんを補ってくれれば、黒森峰の2年間は安定した試合運びができたはずでした。そのみほは今や自隊にいないので、まほはエリカに全体指揮の一部を委ねながら彼女の長所を活かして攻撃指揮を執らせ、エリカが気づきにくい後方などの注意を自分が行っています。

 

 さて、決勝戦の展開は、大洗女子が巧みに黒森峰の戦力を漸減しながら市街地に逃げ込んだところ、その可能性を予期したまほが事前にマウスと護衛を配置しており、そこに呼びこんで主力と挟撃を図るという見事な業前。

 姉妹の知恵比べがお互いに一発入れあってる状況ですが、これたぶん、まほはすんごく楽しいんでしょうね……。自分が想定していたプラウダのとはまるで異なる戦いぶり。奇策を弄しているようで、個々にみれば合理的な戦術行動の積み重ね。それを支えているのは、隊長だけでなく隊員全員の技量と意志。自分が昨年度の反省をもとに改善点として掴んだものを、ほかならぬ妹のみほが実現して、姉に向かってつきつけてくるわけです。昨年度のショックを癒せないまま転校までしてしまったのに、心配していたそのみほが、わずかな間にこんなにたくましくなって。おまけにマウスを撃破ですよ。いったいどうやったんだ。姉として寂しくもあり嬉しくもある気分を隠して、まほはこの予想外の戦況を冷静に受け止め、次の手を講じます。

 しかし、ここで黒森峰と大洗女子の差がでるという。エリカをはじめとする黒森峰の隊員は、それぞれ迷わず敵車輌を分担して追跡しているのはおそらく訓練の成果ではあるんですけど、結果的に大洗女子の「ふらふら作戦」にまんまと乗っかってしまいます。それは、まほとみほの作戦能力・指揮能力の差というより、副隊長や車長、さらに隊員たちが、隊長の指示がどのような意図をもつもので、その目的を達成するのに自分たちが何をすればいいのかを、部隊レベルの視点で判断することができるという能力の差ではないかと思います。

 だって、みほが「相手の戦力をできるかぎり分散してください」と指示したら、すぐさま典子は89式でできる最も有効なことである敵の挑発を、梓はM3で可能と考えた敵重駆逐戦車の撃破を隊員に指示するんですよ。そして隊員も隊長や車長とイメージを共有できているから、その指示をすぐ理解して自分の役割を果たすことができる。その基盤があるから、みほの具体的な指示がいっそう効果的なものになっていきます。

 もちろん、黒森峰の隊員も、相当の練度にあるとは思います。しかし、ケイも言ってた弱点がここで出てしまう。それは黒森峰だけでなく、聖グロもプラウダも呈してしまった強豪校共通の弱点であり、大洗女子の強みがどこにあるのかほんとよく分かります。個々の車輌のスペックは低くても、コマンド・コントロール・コミュニケーション・インテリジェンス(だったっけ)による部隊運用の総合力で勝利するというのは、ぼくが理解しているドイツ装甲軍団の特徴ではなかったか、とか。

 

 分散・分断のあげく、エリカはまほとみほの一騎打ちに介入できずに終わるわけですが、これはまほが己の西住流を貫徹するだけでなく妹と決着をつけたいという個人的欲求を優先した結果でもあるので、この場面について副隊長の責任を云々するのは不公平な気がします。聖グロ戦以上の回り込み砲撃を実現した麻子たちも恐ろしい技量と意志でしたが、ティーゲルの砲塔旋回速度で対応しきったまほ車の隊員も相当なものなのではないでしょうか。そこまでに撃破されてしまった黒森峰の隊員たちも、大洗女子の奇策を真似しようとして流されるのではなく、それらに打ち勝てるように正攻法をいっそう磨いてくるような気がします。まほが残していく西住流を頑なに遵守していこうとすることにもなりかねませんが、ただ命令のままに動くのではなく、守っていくべきものを隊員各自が掴んで実行しようとしていくならば、それはそれで一つの戦車道ではないかと思いますし。

 それに、なんといっても黒森峰には、心強い副隊長が、未来の隊長候補がいるのです。

「次は、負けないわよ」

 そう、このエリカは本当に打たれ強いのですから。

 

 ボードゲームでは、まほとエリカがユニット化されており、まほはみほと並ぶ最強の隊長ユニット。エリカはナオミに匹敵する副官ユニットです。ただし、2人とも撃破能力に特化してますので、カードプレイで部隊行動の幅を広げないといけない感じ(大洗女子以外はどこもそうですけど)。

 ちなみにアンツィオは、隊長アンチョビにくわえてカルパッチョとペパロニが副官ユニットとなってます。アンチョビはまほ以外の強豪校隊長と遜色ないですし(ここで読者は「ドゥーチェ! ドゥーチェ!」と連呼すること)、副隊長の2人はというと、これがなんと。と一見驚きの数値評価がなされてます(値の説明を読めばなるほどと納得)ので、興味を抱かれた方はぜひお求めください

 

 大洗女子については、また書けそうなときにということで。