『りゅうおうのおしごと!』第3巻メモ

 最後となります単行本メモ第3巻分。以下ネタバレです。

 

 p.14 「ひたすら走った」、若き日の森内九段がポカで敗れたときに千駄ヶ谷から横浜まで走って帰った(参照)。

 

 p.16 山刀伐八段、複数の棋士の要素を合体させてる? (1)深浦九段、研究家のトッププロ。ただしタイトル獲得3期という凄い実績ありで、振り飛車はほとんどしない居飛車党。羽生王位に初めて挑戦したとき「好きな女の子のことを考えるように」毎日羽生のことを考えている(作戦を練っている)と述べて、恋愛流とのあだ名がついたうえネットでは同性愛者ネタで扱われることがあるが、当時すでに女性と婚約していた(参照)。(2)青野九段、かつてA級にいた大ベテラン。タイトル挑戦1回、鷺宮定跡や最近の横歩取り青野流など序盤研究で有名。ただし居飛車党。(3)長岡五段、20代なのにC級2組で2回降級点をとったが、その後みごとに1つ消した。当時、羽生の研究会に参加している(つまりそれだけ研究内容を評価されている p.41)との話もあった。ただし現在もC2。

 

 p.20 「なぜついて来ようとする」、ごく最近たしか第3期叡王戦本戦で藤井九段がトイレに行こうとしたとき、対局相手の丸山九段が1分将棋でもないのになぜか追随していた。

 

 p.22 「勝手に俺のシャツを着て泊まる」、まじかー。姉弟子まじかー。体どんだけ大きくなったか、よく分かるよね。

 

 p.26 「つるつる」 つ る つ る。 (投了)

 なお銀子が男湯に投げ込む物の一部が八一に命中してるのは、ついたて将棋で身につけた相手「玉」の位置を推測する能力によるかもしれない。

 

 p.36 「男女は年齢が離れているほうが」、八一は経済力あるけど包容力がまだないし、銀子は八一の保護欲を刺激してない現状。

 

 p.42 リップクリームは佐藤天彦名人がタイトル戦中も必須のアイテム。投了直前にリップクリームを塗り、話題になったことも。

 

 p.47 生石充玉将、明らかに当時の久保王将の実績。護摩行も有名。ただし性格設定は振り飛車御三家(久保のほか藤井九段、鈴木九段)などを合体させているかも。

 

 p.54 「女の子のお知り合いが多すぎる」、むしろ棋士など男性の知り合いが登場しなさすぎる。

 

 p.61 「感覚を破壊された」、1984年に谷川名人(現九段)が福崎七段(現九段)との自戦記に記した表現(参照)。福崎九段は振り飛車穴熊の先駆者の一人で、自玉の堅さを活かして大駒を叩き切り寄せてしまう技をして「妖刀使い」と呼ばれた。

 

 p.68 「流行」、平成24年度の久保棋王・王将はゴキゲン中飛車などの得意戦法に対する居飛車党の研究によって、タイトル2つとも失いA級からも落ちるというどん底を味わった。しかし翌期にA級復帰、さらに最近は王将にも返り咲いている。

 

 p.69 「かのうせいむげんだい」、藤井九段が『将棋世界』2015年7月号での座談会で実際に「僕は居飛車には3つしか戦法がないと思っている」「一方の振り飛車は、三間飛車中飛車四間飛車とあって、それぞれは全く別の戦法なのですね。それで囲い方が美濃囲いと穴熊に分かれるので2倍の6通り。さらに角を換えるか換えないかで2倍に膨れて12通り。そこに向かい飛車もまぜちゃえば、一気にバーンと増えてくる」などと述べている(参照)。この座談会めちゃ面白い。

 

 p.71 「史上三人目の中学生棋士」、加藤九段・谷川九段に続いたのは羽生竜王

 

 p.79 「大局観」、この差を見せつけた有名な1局を挙げれば、永世竜王位を賭けた第21期竜王戦第1局の渡辺竜王・羽生名人戦(参照)。羽生の振り飛車の恐ろしさも味わえる。

 

 p.87・p.90 「泣きそうな顔」、いまの八一には見せない顔。桂香もまた、八一とは別の意味で、銀子にとって特別な、損得を越えた存在。

 

 p.92 「振り飛車党より振り飛車の勝率が高い鬼畜」、羽生善治データベース『玲瓏』によれば羽生の振り飛車通算勝率(「戦型別」参照)は6割6分、先手番だけなら7割6分。ちなみに純粋振り飛車党の久保王将の通算勝率は6割2分(参照)。

 

 p.93 「ボイラー技士」、何かの資格もってる棋士って昔いたような……。

 

 p.98 「スーパー銭湯振り飛車」、振り飛車党の総帥と呼ばれた藤井九段のあまりにも有名な言葉「こっちは鰻しか出さない鰻屋だからね。ファミレスの鰻に負けるわけにはいかない」(参照)。

 

 p.100 「脳内将棋盤」のイメージ、雑誌『AERA』第25巻38号(2012年9月17日発売)掲載の小暮克洋「天才たちの「脳内パネル」 : 羽生の頭の中で、将棋盤はどう再現されているのか」が元ネタか。たぶん「十一面」も浮かぶ棋士はいない。

 

 p.106 「将棋星人」、2ch由来の「おまえら、もし地球に将棋星人が攻めてきて」で始まる有名なコピペがあるが、それとは無関係。

 

 p.106 棋士や男性奨励会員についての銀子の分析、棋界はそうと思わせるエピソードに事欠かない。

 

 p.108 「捌きのイカヅチ」、「出雲のイナズマ」といえば里見香奈女流五冠、10代半ばから女流棋界にこの10年間君臨し、女流棋士の強さのイメージを一新した。奨励会員として三段リーグにも参加していたが、病気による休場(「身体が弱い」p.134)などもあり、この3月に退会。初の女性棋士誕生とはならなかった。

 

 p.110 「感覚に頼りすぎてる」、棋士がAIに敗れたときのパターンのひとつでもあった。つまり銀子はある意味で、徹底的な研究と読みによって先入観を打破しようとしていることになる。

 

 p.112以下、ここからの銀子の独白はもう。もう。

 

 p.114 「小さくなった石鹸」、意外と細かいな八一。それとも同居人のあいに感化されたか。

 

 p.115 「『超速! 3七銀』を開発したのが奨励会員」、奨励会三段の星野良生(現四段)による開発。これにより星野は2010年度将棋大賞の升田幸三賞を受賞された。

 

 p.119 なぁぴちゃー。

 

 p.121 「夫婦っぽいこと」、もしやシャルの両親は一緒にお風呂に入ってるのか。

 

 、京橋は大阪市内なので『大阪市公衆浴場指導要綱』を見ると、第6の1に「同一世帯に属する者」等に関する例外措置の記述があるのね。

 

 p.135 桂香の父である清滝九段、一人娘とどうやって接していいか分からないほど将棋馬鹿なんですよね……。だから娘の気持ちも聞かないで将棋を教えようとしたし、「寂しいかと思って」(p.136)銀子を内弟子にしたし。不器用すぎる。そして「そういう天才達は、凡人のことが理解できない」(p.137)。お互いに意思疎通を図ろうとすればすればするほど、絶対的な断絶がきわだっていく。

 桂香と清滝九段の間ではその断絶は、親子の絆のつよさと棋力の隔絶の確認と将棋愛の共有によってひとまず超越できたけど、銀子と八一の場合はどうか。姉弟弟子としての絆はつよいけど、八一が思っているほど銀子にとって不変で安心できるものではない。棋力の断絶は八一が表向きまだ気づいておらず、銀子が自覚しながらも表には出すまいとしていて、互いに確認できる状態ではない。将棋愛の共有は今更なほど十分だけど、二人とも将棋愛だけで生きていける道を選んでおらず、むしろ仲間を蹴落としてでも生き残らねばならない。今回の桂香と清滝件の和解は暖かなものであるだけに、今後の銀子と八一の関係を想像すると絶望的な相違点が浮かび上がってきてしまう。ただ、桂香と銀子の間にある情の細やかさこそが、銀子にとっての詰めろ逃れの詰めろの一手を導くかもしれない。

 

 p.144 「正座できなくなったら」、それで引退したのが升田九段・実力制第四代名人だったっけ。

 

 p.149 姉 弟 子 に 踏 ま れ た い。

 

 p.153 「予選で当たる確率」、だいたい棋戦の予選トーナメント8つ中2つ半が関西棋士だけのだったりする(交通費等節約のため予選はなるべく関東・関西で固める)。

 

 p.161 「あの人からタイトルを」「二つも」、久保二冠時はこれと異なり、棋王佐藤康光から・王将を羽生から奪取している。奪われた相手もそれぞれ郷田・佐藤康光

 

 p.165 澪ちゃんちょっと胸あるような……? 第1巻口絵を確認したところ横向きでもその気配が感じられないので、この3ヶ月の成長の証ということなのか。時よ止まれ。むしろ戻れ。

 

 p.170 「小児科医に」、立石径・元奨励会三段がモデルか。たていし小児科HP内「将棋」を参照。久保とも奨励会三段リーグで1度だけ対戦している(参照)。なお立石流四間飛車を開発したのは別人の故・立石勝己アマ。

 

 p.173 「C級2組のケツから十番目くらい」、八一は前期順位戦から参加してるので、おそらく4勝6敗くらいでぎりぎり降級点を逃れた雰囲気。新人タイトルホルダーにしては残念な結果だけど、北浜八段をモデルにすれば4勝6敗から10勝0敗でC1昇級・2勝8敗の降級点から8勝2敗でB2昇級と、勝率6割で効率よく昇級する展開もあり得る(参照)。

 

 p.182 「賢王戦」、タイトルホルダーも段位で呼ばれるなどの特徴がまんま叡王戦。この当時はトーナメント戦だったけど昨年度第3期からタイトル戦になった。

 

 p.189 「桂香さんにはたくさん武器がある」以下、銀子の言葉は自分自身に向けた日々の暗示と同じかもしれない。

 

 p.190 「小学生どもを残らず血祭りに」、昔も今も銀子が八一にまとわりつく悪い虫を駆除する方法はただひとつ……。

 

 p.192 「5八金右」、初めて公式戦(しかも竜王戦防衛戦)で指したのはなんと振り飛車党総帥・藤井九段(参照)。

 

 p.203 「高い壁」、八一自身にとっては間違いなく挫折の道のりだった一方で、清滝師匠は6歳児八一との初手合いで「この子は将棋を終わらせるんやないかとまで思った」(第2巻p.172)ことに注意。

 

 p.205 「『読み』を加速させる」、柴田ヨクサルハチワンダイバー』(集英社)の「ダイブ」を思い出す。

 

 p.211 「限定合駒」、第59期王将戦で羽生王将に挑戦した久保棋王は第6局で銀・銀・角の3連続限定合駒によって勝利し、王将位を奪取した。これは後手ゴキゲン中飛車に対する先手5八金急戦の歴史的名勝負で、「桂じゃなくて、香」(p.213)も含めて山刀伐・八一戦はまんまこれ(参照)。

 

 p.213 「あっ……!」、山刀伐は急転敗北直後の頭でも、八一の指摘に「すぐにその意味を理解した」。「同じプロ棋士から『才能がない』と見下され続けた」(p.214)彼であっても、その後の努力の積み重ねもさることながら、一瞬で「見るだけでわかる」(p.107)。ここでも銀子が述べた自分との圧倒的な差が描かれている。

 

 p.221 「最新式のミサイルを」以下、羽生の振り飛車について言われるネットスラングは「アサルトライフルで撲殺」だっけ。

 

 p.235 「ゴキゲン中飛車」の名称の由来は、奨励会時代にこの戦法を開発して棋士になってからも勝ちまくった(2004年度にあわや勝率9割)近藤正和六段が、いつも笑顔でゴキゲンなことから、じゃなかったっけ。

 

 p.239 「左手で将棋を指す」、たしか久保王将もそう。ここでは父・生石玉将に憧れる娘が指し方も真似しているということか。

 

 p.256 『どうして桂香さんの邪魔をするの?』以下、八一が想像するようなことを銀子は思っていないのではないか。銀子は桂香を当たり前のように大切に感じているし、桂香の勝利と昇級を心から望んでいる。だけど、そのためにあいや天衣が邪魔だとは思わない。その二人だって真剣に将棋を指して女流棋士を目指しているのだから。銀子自身があいたちを目の敵にするのも、いまはまだ女流棋士としてではなく私情ゆえにすぎない。けれども八一は銀子が彼を「責めたいのかもしれない」と想像してしまっている。ここで八一は、あいと銀子の戦いのさいに「……恨むぜ。姉弟子」(第1巻p.267)と呟いた自分の心境をそのまま投影している。その想像のうえで、いま目の前にいる銀子を、「将棋から離れた」彼女が「中学三年生の、ごく普通の、悩みを抱える無力な女の子でしかなかった」と捉え、その声をかつての「小さな女の子と同じものだった」と受け止める(p.259)。しかしその銀子は、将棋から離れてなどいない。将棋に向き合い、離れずにいるからこそ、彼女の中に「無力」さが燃え広がる。その業火は自分の研究中・対局中には氷の意志で凍らせているものの、桂香を見守るこのときのように自分の対局する将棋盤を離れたとたんに、いつでも猛威を振るって銀子を焼き尽くしかねない。もちろん八一も「姉弟子だって、自分が盤の前に座って戦うのであれば」(p.258)ときちんと理解してはいる。だが、いまの銀子を「経験したことのない気持ちに戸惑い」(p.259)というのは明らかに異なる。むしろ桂香に近しい銀子は、この気持ちをずっと経験してきているのだから。

 

 p.293 「研究会をしてくれた同世代の奨励会員」、つまり桂香と同じ25歳くらいとすれば、彼もまた奨励会退会目前である。

 

 p.295 「ただ将棋盤だけを見ていた」、あいの(天衣と比べての)未熟な点が、ここでは効果を発揮している。そして第1巻で銀子の盤外戦術に途中までさんざんに苦しめられていたあいが、ここでは桂香の手管にまったく動じていない。これはあいの成長によるものか、それとも銀子との対局でも最終盤では同じ状態だったのか。

 

 p.302 銀は、桂馬と香車の、隣にいるから……(ううう)。

 

 以上です。ところで銀子の鼻毛はやはり銀色なのだろうか。あっちはつるつるなので心配ご無用ですが(最低)。