大洗女子の副隊長・車長について

 というわけで、ガルパンの大会対戦相手をひと通り見たうえでの大洗女子の副隊長・車長についてです。アンツィオ聖グロリアーナ・サンダースプラウダ・黒森峰

  先日も書いたように、ぼくは、大洗女子の副隊長は複数存在していると考えてます。生徒会の3人は全員そうだし、沙織や優花里もそう。ただ、あらためて見てみると、後者の面々は副隊長というより副官かな、とも思います。ここで想定してるのは、全隊員に対する指揮・管理を隊長と分担するのが副隊長。隊長のそばでその補佐をしたり隊長自身のケアを行ったりするのが副官。みたいな区別です。

 あんこうチームの連中についてざっくり言うと、沙織はみほの情動サポートにくわえて、通信という大洗女子の大きな武器を担いました(みほ自身がしばしば直接通信で指示するとしても、通信機器の調整は沙織の仕事ですから、ある意味で命運を握ってるようなもの。彼女がアマチュア無線の資格を求めたのはハード面の学習を含めてなのかもしれません)。優花里は部隊全体への指揮権を持たないけど、みほのそばにいる唯一の戦車マニアとして専門的な会話ができる相手でしたし、偵察その他に活躍してくれたほか、みほの昨年度の自己否定を裏返そうとしてくれる存在でした。華は沙織とともにみほを最初から支えてきたうえ、サンダース戦の段階ですでに砲撃位置をみほに意見具申するなど、持ち前の柔らかさだけでなく意志の強さでも隊長をサポートしました。麻子は言うまでもなく操縦の神様で、なんとなくチームのマスコット。この4人が一緒に搭乗してたからこそ、みほは日常でも試合中でも様々な壁を突破してこれました。この意味から、4人のうち少なくとも沙織と優花里は副官っぽいな、と思うわけです。

 ただし、ぼくが見たところの副隊長と副官については、エリカのところで、彼女が大会対戦校の中でほとんど唯一の、部隊全体に指揮を行った副隊長だと述べたように、両者の区別はどこの参加校でも曖昧ではあります。

 

 

1.生徒会の3人

 

 ぼくが彼女たちを副隊長と見て取る理由は、3人とも部隊全体に対して指示できる立場にあり、そのことを隊長・隊員から認められているからです。もちろん生徒会役員で3年生というのは相応の敬意の対象となる要因ですが、それだけじゃなかろう、と。

 

 桃は組織上の正当な副隊長を担っており、その立場から隊員にたえず命令を下しています。いわば叱り役の鬼軍曹。訓練でも怒鳴ってばかりですし、やらなきゃならないことをやらせる係なので、どうしても親近感は湧きにくい損な役回りなのですが、本編では隊員の誰かが桃を揶揄したり陰口をたたいたりする場面は描かれませんでした。もっとも、DVD第6巻のおまけ映像であけびが(ヘタレ姿も含めて)桃の真似をしてるように、内心の反発はそれなりにあったはずです。しかも実際、練習試合でも大会1回戦でもそのヘタレた本性をさらけ出しちゃってるわけですから、「普段あんなに威張ってるのに」とナメられてもおかしくないはず。ギャップ萌えを生み出すにはちょっと足りない感じもするし。しかし、それにもかかわらず、桃は副隊長としての立場を大会の最後まで維持できました。

 それは、一つには、隊長みほが桃を副隊長として敬意をもって対し続けたからでしょう。3年生・生徒会役員だから、みほが目上には一歩引くから、というだけじゃないのです。試合中や作戦会議ではともかくも、訓練・管理面でみほが桃の指示をくつがえしたことは、おそらくないはずです。実際に訓練中の桃の指示を確認すると、自分ができるかどうかは別にして、間違ったことは言ってないんですね。むしろ、移動・隊列維持・遮蔽など基礎的なスキルを新米隊員に叩き込むための内容をきっちり怒鳴っている。しかしそもそも、桃自身がその初心者の1人であるはずです。ということは、鬼軍曹としての出で立ちも含めて、桃は戦車道について彼女なりに必死に勉強して(それこそあまり勉強できなさそうなのに学園のために必死になって)、そこで学びとったものをなんとか短期間のうちに隊員に精一杯伝えようとしてるんですね。そして、その訓練時の指示内容は、みほから見ても大きな問題を感じない水準だったわけです。みほが苦手な規律面・管理面で頼りにしていただけでなく、こういう桃の戦車道に対する生真面目な努力を、みほは廃校問題を知る前から看取していたんじゃないでしょうか。

 もう一つには、平隊員たちも、桃を蔑んだり反発を示したりするまでに至らない理由があったように思います。もちろん最上級生の役員だから、ということもありますが、桃はなんだかんだ言いながら、訓練もその他の作業もちゃんと参加するんですね。隊員に任せて全体管理にまわることもありますけど、訓練には必ず自分も加わって最後まで一緒に汗を流す。自分を規律の例外としない。風呂もみんなと一緒に入る。桃が一生懸命で公平なのは誰もが否定できません。このへん、杏たちと共に生徒の先頭に立って学園生活を盛り上げてきただけのことはあり、率先垂範を旨としているのです。

 まぁ試合中にうまくできないのは誰もが同じことですし、彼女の気弱さと高揚感によるトリガーハッピーな面は、抑制的なみほの指揮よりも初心者的には分かりやすくノリやすい向きがあり、つい隊員が引っ張られてしまうということもありました。そのへんの問題はプラウダ戦前半まで見受けられましたが、砲手を杏に譲って装填手を務めてからは、その生真面目な面を遺憾なく発揮し、じつに滑らかな装填速度で38(t)無双の影の立役者となりました。あと、アンツィオ戦の前にみほが隊員たちに頼られて囲まれ、見かねた沙織たちに助けてもらってるのを柚子と一緒に眺める桃の、その柔らかく暖かな表情たるや。

 

 柚子は副隊長の役職にはついていませんでしたが、生徒会副会長としての能力を部隊内でも発揮して、実質的な全体サポートを行っていました。管理面での裏方役を担い、また杏や桃の暴走を若干抑える働きを果たすほか、そのおっとりした性格で全体の空気を和らげてもいました。あまり目立たない役回りですけど、ヘッツァー改造時の「おぅらーい! おぅらーい!」の声とか、繰り返し聞いてると一日の疲れが消えますよね。そして一般的な評価としてはスタイル抜群。ぼくとしては、むしろカチューシャのほうが(以下しゅくせー)。

 とくに桃との関係でいえば、みほや隊員の前で強面を装う桃に、柚子が「桃ちゃん」とつい呼びかけて「桃ちゃんと呼ぶな!」と怒鳴られるパターンがありました。あれは日頃の2人の関係や桃の姿をみほたちにも想像させ、サンダース戦で桃が「柚子ちゃん」と泣きついたりもしたこともあいまって、桃のイメージを適度に緩めてくれたのかもしれません。

 しかし、温和な雰囲気を生む副隊長としての役割と並んで、いやそれを上書きするほど印象的だった柚子の活躍は、やはり試合中のあの操縦技量でしょう。練習試合からすでに、横合いから駆け込んで4号をカバーしながら敵に近接射撃できる位置へぴたり、ですからね。

 その後はみほもカメさんチームの回避能力を最初から計算に入れて作戦を立ててるように感じます。サンダース戦ではフラッグ車をお願いして、初戦開始後いきなり敗北という可能性を狭めてますし、その成功をうけてアンツィオ戦でも引き続きフラッグ車、最終局面で巧みにM40の砲撃を回避して囮の役目を演じきってます。あれはあんこうチームの上方からの砲撃も含めて、完全にサンダース戦終盤の応用でしたので、皆がすぐ従える1つの型にしてるんでしょうね。そして、その型を外した(もはや38(t)をも攻撃力として用いざるをえないので)プラウダ戦では、みほはやむなくカメさんチームにその操縦技量を見込んで敵を混乱させる斬り込み役を任せるしかなかったのですが、いやー圧巻。もう言葉もありません。決勝戦でのヘッツァー単騎遊撃や「ふらふら作戦」、そしてあのマウスへの突撃も、柚子の腕前あってのことでした。大会を通じて、みほからの信頼は相当に厚かったと思われます。

 

 杏はプラウダ戦の途中までやる気のない隊員として振る舞ってましたが、生徒会長であり、みほを引き込んだ張本人であり、やはり隊員の間でも相応の立場にありました。杏が副隊長というより、みほが会長の代わりに隊長を務めてるという感じ。

 本編でも、杏がしてることは、砲手となってからの技量発揮をのぞけば、いわば軍令ではなく軍政レベルというか、戦術ではなく戦略レベルというか。そもそもが彼女の発案により、学園を存続させるために戦車道大会優勝という大目標を打ち立てたわけでして。さらに、この実現のために柚子や桃に指示しながら、物・人・金などの工面を図り、大会出場へのハードルをクリアしていったのでした。実際に勝つことはみほの指揮手腕に任せ、まずは勝てるチャンスを得るための状況そのものを、杏は組み上げてきたわけです。さすがは学園艦を指揮する生徒会長、ということでしょう。あとは大まかな方針をそのつど決定し、みほが隊長をやめないように時々発破をかければよし。

 この立場を利用することで、杏は試合でも彼女にしかできない役割を果たしてます。それは、試合開始前に味方が対戦校に呑まれないようにすること。生徒会長という役職柄、杏は隊長でも副隊長でもないのに、対戦校の隊長と自然に挨拶ができます。みほや桃を差し置いて、いきなり杏が出迎えたりもします。そこで杏が鷹揚に振るまい、逆に相手の隊長を呑んでかかるかのような余裕ある態度を示すことで、みほや隊員たちが余計な緊張をせずにすんでいる可能性があるとぼくは思うのです。事実として大洗女子は弱小校ですから、せめて気合負けしないというのは絶対に必要なことでしょう。ちっちゃいけど自信たっぷりな杏の後ろ姿は、それだけでもう大洗女子の戦う姿勢そのものを象徴していたのでした。

 

 それにしても、なんで杏は最初から砲手やらなかったんでしょうかね。たぶん腕前は磨かなくてもあのレベルに達してたんだと思いますが。まぁ面倒臭かったというのもあるでしょうし、副隊長の桃に任せたかったというのもあるかもしれません。でも、優勝が彼女の絶対目標なんですから、手を抜くというのは基本的にありえないはずなんです。

 もしや杏が、カメさんチームの砲手の技量を桃レベルだと見せておくことで、いざ自分が砲手となったときに奇襲効果を見込めると考えていたならば……? 事実、プラウダ戦では38(t)の猛攻に相手が完全に呑まれていました。あれはもう、杏がいよいよ出番と覚悟するほどの追い詰められた状況だったわけですが、おそらく事前情報で「38(t)は操縦は巧みだが砲撃は問題外」と理解していたプラウダの隊員たちは、ブリーフィングとまったく異なる照準能力・予想以上の軽快な機動・素早い装填による連射、の連携にパニックに陥ったんじゃないでしょうか(そこを一撃で落ち着かせたノンナもさすが)。

 この想定で問題となるのがサンダース戦で、あの最終局面はもうずいぶん追い詰められてませんでしたか、という。とりあえずはまだ後ろにカバさんチームのカバーがあったし、どのみちあの距離では敵フラッグ車を狙うことも難しいし、ということで、もしカバーのⅢ突が撃破されたならそのときは、という腹づもりが杏にあったかもしれません。

 また、こう想定してみたときにあらためて感嘆するのは、決勝戦でのヘッツァーの任務の意味です。黒森峰は、準決勝でのカメさんチームの活躍をチェック済みでしたから、これを脅威とみなして警戒するのは当然です。この結果、カメさんチームは(そして大洗女子は)重要局面で切れる奇策カードを1枚失っちゃいました。ところが、みほはこれを逆手にとって、カバさんチームではなく杏たちに遊撃的な待ち伏せ攻撃を指示したんじゃないでしょうか。つまり、ヘッツァーを泳がせることで、まほたちが側面・後方を過剰に警戒しなければならず、そのぶん分散し隙が生まれやすい状況をつくろうとしたのです。(あそこでパンターやヤークトパンターの履帯でなく側面・背面を撃ち抜けたはず、という話もありますが、あんまり戦果を出しすぎて主力に狙われたら孤立無援のヘッツァーはひとたまりもないでしょうし、ほどほどに警戒されたからこそ無事に丘にたどりつけ、その足でかき回してⅢ突らによる撃破率を高めて結果的により大きな戦果を得たつもり、と考えてみたり。)

 切り札を出したら終わりではなく、表に出したままにすることで相手の意識を拘束するという、使えるものは二重三重の意味で使い倒すみほの計略の鋭さがここに見られます。この鋭さは、みほが相手の戦術意図だけでなく、相手の感情まで想像できているから得られるものなんですかね。いや、恐ろしい。(あるいは、この遊撃戦法は杏がみほに提案したものかもしれませんが、そうなると生徒会長の人心掌握術の根幹がここにあるんだな、ということになり、それもそれで怖い。)

 

 

2.典子

 

 個人的には、アヒルさんチームは影のMVPだと思うんですよねー。練習試合でも果敢なアイディアでぎりぎり粘りましたし、サンダース戦では欺瞞・敵フラッグ車偵察と誘引・味方フラッグ車カバー、アンツィオ戦では偵察ののちタンケッテ群を一手に引き受け、プラウダ戦ではフラッグ車として最後まで我慢の逃避行。そして黒森峰戦ではヘッツァーとともにマウス撃破の立役者となり、さらにパンター群を引きつけて勝利に貢献しました。敵を直接撃破する主力には絶対になれないものの、それ以外の役割はたいていこなしてるんじゃないでしょうか。

 その原動力となったのは、バレー部復活を目指す4人の強固な意思統一や、バレー部員らしい身体能力の高さもさることながら、やはり車長であり唯一の2年生メンバーである典子のリーダーシップが大きいと感じるわけです。

 

 誤解があるかもしれませんけど、典子は決して単純な脳筋キャラではありません。そりゃ初めて89式に搭乗したときは「根性ー!」の一言でなんとか乗り切ろうともしてましたし、それ以降も彼女の根性論っぽい台詞はしばしば出てきます。しかし、最初の模擬戦でみほたちの4号をⅢ突との協同攻撃で狙おうとしたり、そもそもあんな崖の半ばあたりに埋もれてた89式を発見しそこまで辿り着いたり、聖グロ練習試合では勝手知ったる大洗市街地のギミックを用いた奇襲を試みたりと、根性だけではできない知的な行動をあれこれ示しているのですね。

 さらに見ていけば、サンダース戦では欺瞞行動を任されて敵の一部を見事に誘引(木を切り倒して束ねた体力もさすが。ただし戦車でへし折ったのかも)、続いて偵察によって敵フラッグ車を発見のうえこちらも罠に誘導、バレーボールの技術で発煙筒を飛ばしてるのも頭の良い工夫です。プラウダ戦では前半こそ勢いにつられてフラッグ車らしからぬ追撃をかましてますが、後半は自分たちの務めに専念。最後のノンナに命中弾をくらう直前には一瞬典子が振り返る絵があり、もしかすると何か察知して急回避を命じていたのかもしれません。そして決勝戦では、みほの指示を正しく理解して89式でできるだけの挑発を行い、黒森峰の隊員をきりきり舞いさせました。この挑発能力はマウス撃破時にも発揮されてましたね。

 さらにOVAアンツィオ戦では、典子は「少しだけ頭使ってあとは根性!」という名言を残してます。このあとアヒルさんチームはペパロニたちに翻弄されてしまいますが、みほの指示を受けて速やかに落ち着きを取り戻し、訓練を思い出して敵タンケッテの弱点を次々と狙っていきます。ここで実際に典子は少しだけ頭を使い、砲手あけびに主砲の振動を体で押さえつけさせることで、移動しながらの砲撃を命中させやすくしてるのです。

 こういった行動を可能にしてる大きな要因は、やはり車長の典子の知性です。考えてみれば、アヒルさんチームがあれだけ偵察担当として優秀だったのは、89式の小ささもあり、また攻撃力がないために偵察に特化せざるを得なかったという事情もあるでしょうけど、典子が敵を視認する能力や、単独で地形を読み取る能力などが秀でていたことの証でもあります。だいたい、典子はセッターでしょう。バレーボールでセッターというのは司令塔であり、状況を瞬時に判断して最善のトスを上げる存在。知的でないはずがないのです。「逆リベロ」とかよく分かんないことも言いますけど。

 

 もちろん、この知性だけでなく、典子には強固な意志が備わっています。試合の中でどれほど絶望的な苦境に陥っても、典子は泣き言ひとつこぼさずに、メンバーを叱咤激励し続けます。それは、優勝がバレー部復活を意味するから。勝たなければ、廃部という決定を覆せないから。

 そもそも典子たちが戦車道を選択したのは、あの全校生徒ガイダンスに参加して自発的にということでしょうから、おそらく典子たちは戦車道選択者への諸々の特典をすべて辞退して、その代わりにバレー部復活を願い出たのでしょう。そこで杏はすんなりそれを許可するのではなく、特典はそのままにしたうえで「大会優勝」を廃部撤回の条件にした、という感じでしょうか。ある意味で生徒会長に乗せられたわけですが、しかし典子としても堂々と受けて立った格好です。学園艦廃艦の撤回を求めた起死回生の一手として戦車道大会優勝を掲げた杏と、バレー部復活の撤回を目指して戦車道大会優勝を目指す典子とは、じつにそっくりな戦い方をしているのです。

 だから、勝利のためならルールの範囲内で最大限の努力をする、絶対にあきらめない、ということなのでしょう。優れた身体能力をもつバレー部メンバーが89式以外の主力戦車に搭乗していればずいぶん活躍しただろうに、とはぼくも想像したものですが、典子たちだったからこそ89式の能力を限界以上に引き出せた、とも考えられます。そして、その知性と意志とをもって鉄の団結をもたらしたのは、典子のリーダーシップに他なりません。4月当初に自分以外の部員が残らず、新入部員も3人だけで廃部と通達されたとき、自分も1年生もあきらめさせずに引っ張ってきたのが典子です。おそらくは決勝戦の前日だけでなく、厳しい訓練を終えたあとバレーボールの練習に汗を流すのがアヒルさんチームの日々だったでしょう。聖グロ戦でこそ待機中にトス練習をしていましたが、「いつも心にバレーボール!」という典子の言葉は、そのままチームの団結のシンボルでした。

 あと、典子の体育会系的な先輩・リーダーへの礼儀正しさは、たぶん編成当初の部隊を引き締めてたんじゃないかな、と想像します。1年生チームはあんなだし、歴女チームも別方向にあんなだし。みほや桃の指示にちゃんと敬意を持って従う(教えを請うときは麻子にも敬語を用いてる)という態度を自然にとれるバレー部員の存在は、隊員らしさを形作るうえでけっこう重要な核になったのかな、というわけです。

 

 ところで、1年生3人がバレー部員のユニフォームらしき格好なのに典子だけ体操着っぽい理由ですが、1年生たちは中学のユニをとりあえず着用してるだけのことなのか。それとも、典子が1年生にはバレー部復活を約束した証として高校部活のユニフォームを与え、自分はいったん廃部させてしまった責任を負って復活までユニ着用を禁じたのか。すでに公式で語られてるかもしれませんけど、いろいろ想像できますね。優勝パレードを終えて学園艦に戻り、典子がユニフォームを久々に纏って部員の前に立つ瞬間。もう号泣(ぼくが)。

 

 

3.梓

 

 典子と並んでぼくが高評価してるのが、1年生車長の梓。まぁどなたも注目してたはずですが、脳天気な年少者集団が次第に成長していくという役回りですので、いちばん伸びしろがはっきりしてましたよね。

 ぽやぽやした理由で戦車道を選んだウサギさんチームですので、模擬戦や聖グロ練習試合では案の定戦意喪失。しかし、聖グロ戦での圧倒的な非勢をはねのけかけたみほの活躍を目の当たりにして、梓たちは反省とともに憧れを抱きます。6人とも、みほたちが学園艦に戻るまでタラップ上で待ってたんでしょうかね。あれだけ怖い思いをしたんだから、自分には無理だもうやめたい、となってもおかしくないんですよ。なのに、あえて踏みとどまって頑張ろうと決意したのは、それだけみほが眩しかったということでもあるし、部分的にはみほが西住流の・戦車道の体現者として理想の女性(格好いい・モテる)像になったということでもあるし。

 あるいは、メンバーが6人もいたというのが意外と大事だったのかもしれません。1人2人だったら自分の判断と感情で逃げ腰になれちゃいますけど、6人もいると相互に影響しあって空気を生み出しちゃいます。もちろん戦車を放棄して逃走したようなパニックの伝染もあり得るんですけど(アンツィオ戦前にも暗い倉庫内でみんなメソメソしてますね)、そこで6人が同調したからこそ、一息ついた誰かが試合の行方を気にしだして、それじゃ遠目に見物を、という流れになったとき、全員がつられて行動したんじゃないでしょうか。そして、みほの活躍に、1人が「先輩すごい……」と呟けば、皆もそう感じててうなずくわけですよ。自分を振り返って反省しはじめれば、それが我も我もと続きます。

 例えば、そこで最初に「もう一度頑張ろう」と言い出したのが、梓だったのかもしれません。みほたちを迎えたとき、梓は車長として6人の真ん中に立ち、お詫びを述べてます。とくにみほは自分と同じ車長ですから、憧れと自分の至らなさへの反省はそのぶん深かったとも想像します。

 

  それでもサンダース戦では、砲弾の積み忘れに笑ってますので、まだ梓の真剣味は足りてません。ただ、ここでは初の真剣試合を前にして、優季のうっかりを(あやに続いて)厳しく叱るなどよりは、気分を緊張させないように配慮していたのかもしれませんが。表情も、笑顔というよりは苦笑ですし。一方で試合開始直前のみほの訓示を、梓とあやは(たぶんも紗希も)真面目に聞き入ってますよね。

 さて、ウサギさんチームの役割は、部隊内では比較的優れたM3の装甲と、防御時には短所となる車高を活かした、偵察が専らです。よくアヒルさんチームと共に両サイドをチェックしてますね。サンダース戦では偵察に成功した直後いきなり包囲攻撃されますが、そこで梓は懸命にふんばって正確な情報を隊長に報告します。4号と無事合流してみほの姿をとらえたときの、梓のほっとした声たるや。そこまで車輌放棄せずに6人でこらえてきたわけです。そして逃走先に再び敵が待ち構えているのを見たとき、梓は「どうする?」と誰にともなく聞いてしまいます。経験不足のうえにいったん安心したからこそ、自分で判断して即応することができなくなっちゃってるという。ここではみほの敵中突破という大胆な指示に驚き、またシャーマン戦車から一撃かすられて車内で耳を抑えてます。もしかすると、砲撃を受けたのはこれが初めてだったのかもしれません。

 このままなら萎縮してしまいそうなところで、みほの情報戦が功を奏して、ウサギさんチームはカバさんチームと共にM4を1輌撃破することに成功します。これがねー、じつに大きかったと思うんですよ。退却時に37ミリ砲で後方を撃ってましたけど、あれは防御的なものだし撃破なんて無理。でも、ここでそのM4を主砲で撃てた、しかも戦果を挙げられたというのは、さっきまでの落ち込みそうな士気を一挙に回復して余りある自信を、梓たちにもたらしたはずです。その勢いもあって、終盤で挟撃されたときも隊長の指示に従いつつ、「今度は逃げないから!」と自分たちに活を入れられました。このときの6人の表情がいいですね、隊長への全幅の信頼のもとでの覚悟。それは同時に、反省と努力によって得た自分たちの成長をみほに見てもらうチャンスでもありました。そのあと撃破されてしまいましたが、役目は全うしたわけですし、無線がまだ生きていたならばみほの諦めない訓示も聞けてたわけですね。そのうえでたしかに勝利を獲得した隊長への敬意はますます高まったことでしょう。……桃のあの泣き言まで聞いてしまっていたかもしれませんが……。

 

 さて1回戦勝利ののち、油断せずに次に備えた訓練に入るわけですが。M3への砲弾積み込み作業の光景について、砲弾を搬入しづらい側で上げ渡しているという指摘をどこかで拝見した記憶があります。描写ミスの可能性もありますが、これは積み込みしやすいほうの側面がふさがってるなどトラブル時を想定した訓練なのかもしれません。 試合中は何が起きるか分からない(実際プラウダ戦では主砲を損壊している)ので、不利な状況でも最善を尽くせるように励んでいるという想像。逆にいえば、渡河なんてそれこそ何度も訓練したでしょうから、決勝戦でエンジン停止したときはあれだけ焦ったわけです。あと彼氏が離れていくとかも想定外。

 アンツィオ戦のことはこないだ書きましたので省略。ここでも勝利してつい増長しちゃうのはウサギさんチームに限ったことではなく、プラウダ戦では試合開始中盤に痛い目にあってしまいます。ただ、開始前の作戦伝達時に「なんだか負ける気がしません。それに、敵は私たちのことナメてます!」と語った梓の言葉には、ただの増長だけとも言えない意味が込められてるように感じます。それは、自分たちを見下す相手への反発心にくわえて、こちらを軽視するプラウダはそこに隙があるのではないか、という梓なり敵情分析です。サンダース戦ではみほがアリサの増長を突いて逆用したのでしたし、アンツィオ戦では相手を「ノリと勢いだけ」とナメないことで対応に成功したわけです。プラウダが大洗女子を弱小校と蔑むのであれば、それこそが相手の急所になる、という判断です。

 梓はここで、彼女なりにみほをもう1段高いところで見習おうとしてみたのではないでしょうか。アンツィオ戦では優季に「梓、西住隊長みたい~」と言われて、梓としては相当に嬉しくもあり照れくさくもあり、よりいっそう憧れの隊長から学ぼうと意を強くしたと想像します。ウサギさんチームの車長としては、そこそこできるようになってきた。となれば次は、味方全体の勝利のために自チームの行動だけでなく全体の行動方針を考えてみる、というステップアップを視野に入れる段階です。もしも梓が本当に隊長みたいになれるのであれば、いつか彼女が大洗女子の隊長になりうるんですから。だとすれば、この台詞は梓の増長ではなく、責任感と誇りの表れなのです。

 ただまぁ、実際にはそんな態度がカチューシャの策にぴったりハマってしまうわけですが。寒さと空腹と絶望的な戦況で、あの典子さえ士気がだだ下がり。しかし、そんな廃屋にみほのあんこう踊りが降臨。主力メンバーが次々加わった結果、気がつけばウサギさんチームも一緒に踊ってるわけですが、これはみほの心意気に打たれたことでもあり、場の明るくなっていく空気に同調したということでもあり、またさらに、あんこう踊りが梓たちにとって一つのシンボルでもあったがゆえかな、と思います。

 つまりあんこう踊りとは、聖グロ敗戦の結果みほたちが衆目の前で踊らされた罰ゲームであり、それを隊長たちにさせてしまった自分たちの不甲斐なさの記憶なのです。もちろんみほはそんなことを思い出させるつもりなど毛頭ないんですが、梓たちは当然思い出します。ここで隊長たちだけあのときのように踊らせておくわけにはいかない。自分たちも分かち合わねばならないし、分かち合いたい。だけど、あのときの記憶は同時に、みほのあんこうチームが今よりもっと絶望的な孤立状態にありながら聖グロを敗北間際まで追い詰めたことをも思い出させます。いまはまだこんなに味方が揃っている。いまだ諦めることのない隊長に率いられている。そして、そんな隊長に憧れて、ここまで仲間と頑張ってきた自分がいる。主砲が使えなくても勝利のために貢献できることは、すでに実戦経験済み。それに、敵は私たちのことナメてます!

 そして梓たちはフラッグ車を守るために身を挺して犠牲となり、撃破されてなお(サンダース戦のように悲鳴をあげることなく)士気高く報告と無事の返事を行い、カモさんチームに護衛を託すのでした。6人ともチームで思考の共有ができてるんですよね、やはり同調しやすいのだとも言えますし、あんこうチームと同じように各人が冷静で自主的な判断ができつつあるのだとも想像できます。

 

 決勝戦前夜には、6人揃って『戦略大作戦』を視聴しながら涙。あれって砲塔旋回できないティーガー戦車に感情移入してるんですかね……。M3も主砲はそうだし。しかし、そのおかげで彼女たちは、試合でエレファントを撃破するという殊勲を挙げるのでした。そのへんは以前も書きましたので、ここでは渡河でエンコしたときの梓とあやの判断に注目します。すぐには再始動できないと見た2人は、決意の視線を交わすと、ウサギさんチームを残して先に進むよう隊長に具申します。それはもちろん、彼女たちなりに全体の利益を考えてのこと。足止めのために犠牲となるのは、みほだって同じ状況ならそうするだろうと考えていたかもしれません。しかし、みほはそうではなかった。仲間を助けることを優先する隊長の姿に、梓たちは練習試合を超える感動に震えます。隊長は仲間の誰をも切り捨てない。そして、そのうえでじつは勝利を捨てるつもりもない。みほ自身が救われたこの行動によって、梓たちは憧れの隊長の新たな面に気付かされ、そんな素晴らしい隊長に大切な一員として受け入れられている自分たちへの誇らしさを強く抱きます。

 そんな気概に支えられてか、市街戦に移ってマウスに翻弄されてもみほの咄嗟の計略に従って牽制攻撃を行い、マウス撃破の喜びに浸ることなく敵主力の接近予想時間を報告するという切り替えの早さ。練度高い。その後の大活躍については、ここではもう繰り返しません。自分たちで立案した戦法で挑むことをみほに任されたんですから、もう嬉しかったでしょうねー。渡河での恩返しもありますから、そりゃ気合も別格です。なお、ヤークトティーガーが右折先ですぐ方向転換して待ち伏せをかけている可能性に梓が気づいたのは、聖グロ戦でみほがマチルダを仕留めたあのやり方を覚えてたからでしょうか。

 これと同様に、たぶん今後も梓は「先輩ならどうしたんだっけ・どうするだろう」とつねに考えていくことになるんだろうと思います。それは、みほを絶対視するということではなく、自分を超える憧れの存在にたえず向き合うということ。隊長の指揮ならばヤークトティーガーを自車の損失なくうっちゃれたかもしれない。待ち伏せをもっと早く看破して、大回りして背後に出られたかもしれない。あるいは、急停止の直後に全速右折して主導権を確保できたかもしれない。まぁM3で駆逐戦車2輌撃破というのはすでに伝説の領域ですが、それに満足せず上を目指せるというのが、梓の輝ける戦車道なのでしょう。

 

 

4.エルヴィン、そど子、ナカジマ、ねこにゃー

 

 まとめてですみません。

 

 エルヴィンは、歴女チームのリーダーであるカエサルを差し置いての車長なんですが、これは専門からして彼女たち納得の分担でしょうね。模擬戦でⅢ突に乗り込む前、エルヴィンが冬戦争云々と(じつは間違ってる)その知識で3人を叱りつけてますから、それじゃせっかくだから車長はエルヴィンで、となっても自然な流れ。また、このチームはお互いの知識・能力を冷静に理解し尊重しあってる感じがするので、ちゃんと考えての適材適所なのでは、と思います。(なんで砲弾抱えてぷるぷるしているカエサルが装填手か、って? ローマ兵のタフさ故ですよ!)

 さすがにエルヴィンも苦境に焦る場面がありますけど、基本的に彼女はロンメルびいきですしⅢ突の実績もこれを活かす戦術も知ってますから(最初は仲間の趣味を容れてあんな塗装してたけど)、脳内ドイツ軍の機動防御を戦車道試合で実際に演じられることに士気は高いし合理的判断もできる。言ってみればエルヴィンは「パンツァー・ハイにならない優花里」なので、安定した指揮能力を保っていました。みほもカバさんチームを攻撃主力に据えて作戦立案してますね。サンダース戦では伏撃に成功し、アンツィオ戦ではなんと突撃砲同士の格闘を演じきり、プラウダ戦では敵フラッグ車を撃破する殊勲。あのとき、みほからの「Ⅲ突を雪中に埋めて伏撃」という指示を、すぐ理解して短時間に実行してしまうあたりが歴女チームの恐ろしさですが、エルヴィンは当然のことながらああいう突撃砲の隠蔽方法を知っていたでしょう。惜しむらくは決勝戦で、マウスからの撤退指示が間に合わなかったことですが、フラッグ車をかばう意味合いでなければ、たぶん伝説の戦車の登場に見とれてたんじゃないかしら。気持ちは分かります。

 

 そど子はプラウダ戦からの参加でしたが、試合中の活躍はさほど目立ったものではありません。フラッグ車のカバーや、集団行動の一翼を担うなど。逆にいえば、いきなり参加させられたのに、それなりについていけたあたりが風紀委員の意地ということでしょうか。意外な視力を活かして、プラウダ戦では偵察を任されてもいました。

 ただ、むしろ彼女の大きな役割は、日頃の訓練時にあるように思われます。つまり隊員の風紀を維持すること。プラウダ戦の前に、隊員の服装の乱れなどを厳しく叱りつけてますけど、あれはそど子にすれば当然の行為(新しい環境で気後れしないための攻撃的防御かも)であると同時に、叱り役を1手に引き受けてきた桃の負担を減らしてくれることでもありました。規律化のために桃は結成時からずっと一同を叱り続けてきたんですが、日常レベルの事柄については、桃が口を出さなくてもそど子が自主的にやってくれるわけです。実質的な副隊長補佐が加入してくれたという、これはけっこうありがたかったんじゃないでしょうか。そのぶん桃は訓練に専念できるし、部隊管理や新戦力獲得などにも気を回せてました。

 また、隊員にとっても、桃にはさすがに口答えできない一方で、そど子には比較的気楽に文句も軽口も言える関係をつくれました。ちんまいことや麻子と奇妙な仲良し関係なことも影響してますけど、風紀委員として日頃お馴染みなことにくわえて、そど子は戦車道の場では新参者ですから、ここで気安さが生まれてるんですね。つまり、風紀委員という堅物を参加させることで、隊内には叱り役の分散と緊張緩和が得られたということになるわけで、そういえばそど子たちを無理やりメンバーに加えたのが杏でしたね。まさか……そこまで考えて……あるいは直感して……?

 

 ナカジマは決勝戦でのレオポンチーム指揮で大活躍してますが、あれはどちらかというとメンバー全員の技量のおかげ。同じく全員の功績としては、やはり自動車部という裏方としての役割がもう、みほたち最敬礼です。発掘されたボロ戦車をたちまち動けるようにし、毎回あれだけぶっ壊しても回収して直しちゃうんですから、『泥の虎』を思い起させる整備士の神業。搭乗するのがポルシェティーガーってのもそのつながりですよね。「ゆっくりでいいよー」というあの名台詞も、なんとなくハンスの動きはとろいけど確実に修理する姿を呼び起こしませんか。しませんね。

 強豪校については後継者育成の視点でいろいろ書きましたけど、大洗女子は梓がみほの後を受け継ぐとしても、もしかすると遥かに重大なのは、この自動車部の部員確保かもしれません。それぞれの試合の勝ち負けもさることながら、補給・兵站が結局は命綱なのです。

 

 ねこにゃーのアリクイさんチームは決勝戦冒頭でいきなり撃破されてましたが、あのおかげでみほのフラッグ車がカバーされて助かった、というのがすでに専らの評価。車長としての能力はあんまりないものの、戦車道ゲーム『ぱんつぁー・ふぉー!』ではその身代わり能力をイベントカード化されており、うまく使えばかなり有効なはずです。

 また、アリクイさんチームとしては、チームユニットにプラス修正の能力がちゃんと与えられてるんですねーこれ。他のチームに比べるとさすがに見劣りしますけど、こういうメンバーが揃った大洗女子はみほが語ったとおり、戦力不足を「戦術と腕でカバー」できるだけの素質をもち、実際にそれを成長させることのできた素晴らしい仲間たちだったのだな、とあらためて実感するのでした。(チームユニットの多くは大会シナリオの途中で能力向上します。)