ガルパンOVA感想

 『ガールズ&パンツァー これが本当のアンツィオ戦です!』視聴。以下ネタバレ感想です。(追記:2015年6月10日に長文考察へまとめ直しました。)

 

 本編では一瞬で終わったアンツィオ戦、まぁいかにもイタリアらしいやられかたでしたが、この試合の実際の姿を描いた1本がこれ。久々のガルパン作品ということでわくわくしてたところ、期待以上に楽しませていただきました。突撃砲同士の鍔迫り合いとか、豆戦車の集団暴走とか、なぜか強く見える89式とか、いや燃える展開でしたねー。そして「なるほど、だからこの試合終了の場面に行き着いたのか」と納得させてくれる収束。オチも含めて拍手です。

 

 さて、ガルパンは基本的に学園スポーツもののアレンジなので、勝利へと努力する過程が個人の成長やチーム内外での人間関係の拡大深化と結びついてるわけですが、本編のサンダース戦とプラウダ戦の間に大洗女子のメンバーがこういう練習や準備をしていたんだ、ということが具体化されたことで、個人やチームの成長というものがいっそうつかみやすくなったわけです。

 それに加えて、アンツィオは、学園やチームが資金難だったり、軽めの戦車が主力だったり、さらに戦術眼に欠けたメンバーが多いので隊長の役割がより重要だったりと、大洗女子とよく似たチームなので、こちらとしてはアンチョビたちの苦労や工夫や過失を共感的・好意的に受け取りながら、何が勝敗を分けたのかをぼくなりに比較検討したくなるのでした。というわけで以下駄文。

 

1.リーダーについて

 

 アンチョビもみほも、自分の仲間たちのことが好きで、大切に思っていて、身内の長所も短所もよく掴んでいます。その持てる戦力をふまえて、どうやれば最大の力を発揮できるかと考えます。どちらも本当にいいリーダーですよね。

 アンチョビはP40を獲得して味方を鼓舞しつつ、戦力については冷静に分析したうえで、正面突破ではなくダミーを用いて後方からの撹乱と分断、それに乗じた主力による敵フラッグ車の撃破を狙います。みほはP40とタンケッテへの対策を訓練に盛り込み、各チームの役割を習熟させていきます。カバさんチームへの指導をみるに、アンツィオの「ノリと勢い」にまかせた攻撃をそらしながらⅢ凸でフラッグ車を遠距離射撃、という作戦だったのでしょうか。

 実際に試合が始まると、双方に事前予測とのずれが生まれます。アンツィオ側はダミーが早々に見破られてしまい、大洗女子側は敵の猪突猛進を受けずじまい。そこで両リーダーとも次の手をうつことになるわけで、両者ともちゃんと策を用意していたのはさすがです。しかし、(チームメイトにその指示が通ったかどうかは次の問題としまして、)指示のしかたにどうも両者の個性が表れていたのかな、と。

 

 みほは、各チームから報告を受けたさい、たとえそれが軽率な行為の結果だとしても、「大丈夫」などと一声かけて落ち着かせ、すぐにその報告をふまえた修正指示を出します。もう徹底して、自分の感情をあらわにしません。冷静だけど冷酷ではない、頼りになる隊長の鑑。そして出す指示も要点が簡潔かつ具体的で、指示を出されたチームが何に気づけば有効な行動をとれるかを的確におさえています。ウサギさんチームには「敵を引きつけて」、アヒルさんチームにはタンケッテ戦術の種明かしと射撃ポイントの確認、カメさんチームには囮としての役割。

 その結果、アンツィオは当初ダミー作戦で試合の主導権を握ってたはずなのに、いつの間にか分断されイニシアティブを奪われることとなってしまいました。個々の場面ではM3も89式も追い回されてるんですけど、戦術的にはみほの目論見通りに追い回させられてるわけです。さらにカルパッチョ搭乗車もⅢ凸とタイマンはってしまいますので、P40と連携できる車輌がいなくなるという。

 

 一方アンチョビは、予想以上に頭悪い報告を受けて、次の手をうつ前につい感情を出してしまいます。みほのようにすぐ割り切ることができないというのは、彼女の隊長としての見通しの甘さや策に溺れる弱さでもあるだろうけど、仲間たちの行動をそこまで酷く想定したがらないという人の良さでもあって、ぼくはわりと好きです。(逆にみほはみほで仲間たちを信頼してないんじゃなくて、自身を省みたうえで人間は失敗しがちなものと理解してるんでしょう。だから穏やかに励ませるわけで。)

 そしておそらくその表裏一体の個性が、厳しく言えば敗北を招くことにもなりました。まず、「マカロニ作戦」の破綻をうけて「分度器作戦」を宣言してますけど、現況でどうやって実行に移すのか具体的な指示を出してないんですね。もちろん、事前に伝達してあるわけですからメンバーは分かって当然なんですが、彼女たちの能力はさておき、この流動的な戦況のなかで各自が何を第一に考えて行動すべきかについての確認徹底を、アンチョビがしてないわけです。だから「何だっけ?」で終わっちゃって、何をすべきか、につながらない。全車集結を指示したときも牽制攻撃などを促してないから、みんな一斉に逃げようとして背面を堂々と撃たれちゃう。

 さらに、P40を守りに駆けつけたセモヴェンテが転がり落ちるのにアンチョビは「怪我するぞ!?」と動揺して叫んでますが、勝利のために38(t)を狙うことよりも、自分が搭乗するフラッグ車を逃がすことよりも、仲間の心配を優先しちゃってるわけですよ。もうね、甘い。そしてこれもまたみほとよく似ているんだけど、やはり切り替えが遅い。これがアンチョビの戦車道ですよ、そりゃそんな姐さんにみんなついていきますよ。もう愛しくてたまりません。

 以上、指揮能力の差というものはたぶんあって、それが勝敗を分けた一因だろうとぼくは考えますが、それが両者のよさでもあり、それぞれの仲間たちとの独特なつながりを生み出す基盤であるということは、勝敗とは別の大切なものなのだろうとも思います。

 

2.サブリーダーについて

 

 対戦相手は名ありキャラの人数が限られているという事情もあり、どうしてもサブリーダーの能力や分担などについては描写に制約を受けざるをえないのですが、とりあえずカルパッチョとペパロニの役割を大洗女子のメンバーと比べてみます。

 カルパッチョは試合開始直後にアンチョビの指示を作戦名で言い直して伝達しているように、おそらくこのメンバーの中で参謀的な役割を担っているのでしょう。アンチョビやペパロニたちが言い落してることや忘れていることなどを指摘してフォローする縁の下の力持ち。大洗女子でいうと柚子 でしょうか。ただ、柚子と同じように、若干フォローはするけれど強く修正したりはしないという感じ。そのへんは例えば「マカロニ作戦」を伝達するさいに、ダミーの予備は使用しないことを確認してないあたりに表れてます。両チームとも、よくも悪くも隊長の指揮能力に絶大な信頼をおいてるんですよね。

 しかし、このカルパッチョがⅢ凸とタイマンするためにP40の護衛から離れたのは、相当大きかったのかなーと思います。なんで護衛してたかといえば、たぶんP40を狙う敵車輌を側面撃破したり、タンケッテによる撹乱に乗じて敵フラッグ車を狙撃したりするためでしょう。カルパッチョ搭乗のセモヴェンテが同型車の別働隊を率いていないのは、アンブッシュによる敵戦力漸減よりもそれらを優先したことの証だと想像します。なのにⅢ凸に引きずられたことで、アンチョビの選択肢がえらい狭められてしまったという。そして、カルパッチョが護衛を離れたのは、Ⅲ凸の攻撃力を警戒したためでもあるけど、むしろカバさんチームのエムブレムを見て「たかちゃん」搭乗車と気づいたからですよね。役割よりも個人的な理由をつい優先してしまうあたり、意外と熱いというか、いかにもイタリア風味というか。幼なじみと全力で戦えて、しかも後で同じ装填手と分かって、嬉しかったでしょうね。エリカとは違ったタイプの、友人かつライバル。いいですね。

 ペパロニの方は、どうにも敗北の直接原因のような印象をもってしまいますけど、まぁあれだけ作戦が分かっていなければしょうがないところ。しかしまた、指示は忘れるけどアンチョビを本心から慕ってるのは明らかで、そのアンツィオの中でも図抜けて陽気な性格からしても、メンバーの士気をもり立てるのにこれ以上もない適役です。ペパロニが鼓舞してカルパッチョがフォローするというのがサブリーダーのバランスなんでしょうが、とはいえアンチョビも含めて全体的にノリと勢いが強すぎるので、いかんせん釣り合いとれてないんですよね。

 そのペパロニですが、タンケッテ群があれだけしぶとく蘇り続けたのは、彼女の率先垂範もあってのことかなと思います。文字通りの根性で、対する相手がアヒルさんチームというのがその意味でもまた好敵手でした。また、最後に駆けつけたものの一瞬早く撃破されてしまったわけですけど、もし間に合っていたなら38(t)に向かって突撃をかましてたんじゃないかな、と想像してます。あるいは、最初からP40の護衛チームに属していたら(それはタンケッテ統率者としてありえないことですが)、実際の護衛タンケッテのようにP40側面を落ち着いてカバーするのに飽きたらず、いきなりカチコミかけて大洗女子の動揺を誘い、万一みほから一瞬のスキを奪えたならカルパッチョが一撃を食らわして勝利、なんて展開もあったかもしれませんね。まぁやがてヘッツァーをマウスに突撃させるみほのことですから、冷静に対処できちゃいそうですが……。

 ともあれ敗北後もアンチョビたちと同様に明るいペパロニでしたが、今後アンチョビが引退・卒業を迎えるときに、引退試合では絶対に勝って姐さんの花道に、などと考えてすんごい真面目に準備して訓練してそれでも負けちゃって、戦車道を始めてこのかたこんなに悔しいことはなくて、でもドゥーチェが満面の笑顔で「いい試合だった! さぁ食べるぞ!」と迎えてくれて、ペパロニが涙ぽろっぽろ零しながらも晴れやかに、という続編をどなたかお願いします。

 

 大洗女子のサブリーダーというと、全体の統括としては杏ということになるのかもしれませんが、実際のところは調整役として柚子だったり、叱咤役として桃だったり、みほも含めた情動フォロー役として沙織だったり。また、各チームのリーダーがそれぞれサブリーダーの役割を果たしつつあるのが、大洗女子のまたとない強みであり成長のポイントなのでしょう。とくに今回目立ったのが典子と梓。

 典子はバレー部長としてチームを引っ張る素地があり、さらに今回はたんなる根性論だけでなく、「少しだけ頭使ってあとは根性!」を言葉通りに実行してます。みほの指示で落ち着いたあと、砲手のあけびに主砲の動揺を抑える指示を出してます。頭使ってる。また、地味に重要なのは、典子の偵察能力ですね。サンダース戦でも頑張ってましたけど、視力だけじゃなく訓練の賜物だと思います。

 梓ははっきりと、砲手・操縦手への効果的な指揮の場面でその成長の姿が描かれました。この場面でとりわけ素晴らしいのは、みほから新たな指示を受けてないのに、梓は敵戦力を引きつけておくという以前の指示を現況に沿って解釈しなおし、要するに目標とすべきは敵戦力を味方のフラッグ車や主力に接近させないことだから、少しでも確実に撃破することが重要だ、と判断してることです。作戦や指示の目的・目標を理解することで、柔軟な修正や自主的な戦闘行動が可能になってるんですよね。優季にも「西住隊長みたい~」と言われてましたが、聖グロリアーナ戦での反省とみほの戦いぶりへの敬愛を、隊長の強さの根幹を見据えたうえできちんと活かせた格好です。

 杏はいつもどおりでしたが、柚子が囮としてのフラッグ車の移動をこなしてましたし、エルヴィンも敵のダミー確認後に、Ⅲ凸を38(t)の前から後ろに移動させてカバーしてます。サンダース戦以来、こういう戦術行動をみほの指示なくても自発的にできるようになってきてるんじゃないかな、と勝手に想像。さっき梓について記しましたが、大洗女子の車長たちは、隊長の方針に従いながら自分で考えて具体化するという努力をそれぞれ始めているように感じます。これもまた、アンツィオとの差の一面なのかな、と。

 

3.戦車について

 

 リーダー、サブリーダーとくれば一般隊員がくるべきところ、そこはあんまり問題じゃない気がするんですよね。いやまぁ、桂利奈がM3の操縦をいっぱい練習したんだろうなとか、カエサルが下宿でも頑張ってたなとか、個々人の努力はあるわけですが、それはアンツィオでも彼女たちなりに真面目にやってると思うんです。だいたい双方とも操縦手の技量水準が凄すぎるよね。

 それよりも試合に影響してると考えるのは、使用車輌の違いです。火力もそうですが、むしろ通信。例えばアンツィオのカルロ・ヴェローチェCV33では、ペパロニが車長と通信手と機関銃手(砲手)を兼任してます。セモベンテM41ではカルパッチョが車長兼装填手。どちらの車輌も、部隊全体への通信を行うときは戦闘中の彼女たちが通信する余裕はあまりありません。一方の大洗女子では、4号と89式とM3は通信手が独立、38(t)とⅢ凸は車長兼通信手というぐあいに、通信が戦闘中でも比較的やりやすい(通信手が砲撃・装填・操縦を担わない)車輌が揃っています。みほの指示が伝わりやすく、みほに各車からの報告が上がりやすいのは、こういう乗員配置を含む装備面の特徴にも由来してるのかな、と。むろんサンダースほかの強豪校は当然のごとくその手の車輌を装備してるんですが、大洗女子もこの点に関してだけは遜色ないのです。

 そういえば、みほが第1話で倉庫の4号に触れながら「いけるかも」と呟いたとき、その脳裏には保管ぐあいや火力・装甲だけでなく、通信手の独立による効率的な部隊運用のことまですでに念頭にあったのかもしれません。また、この通信の重要性を実感したからこそ、沙織もハムの資格をとろうと頑張ってるわけですよね。作品内ではみほが直接指示を出してる場面も多い一方、沙織もプラウダ戦などで次第にその努力の成果を示していくことになります。

 

 もっとも、アンツィオにそのへん考慮した装備を、と求めるのはないものねだりであって、アンチョビは自分たちの持てるものを最高度に活かして勝利を掴もうとしたわけです。そして、おやつを我慢して蓄えた資金でわざわざ通信効率を上げるよりは、マジノ戦でも苦労したと思しき装甲貫通力を優先したというのも、やはりうなずける話。また、交戦中の通信能力の弱さを補うために、これまでアンチョビは自車も攻撃軸の一方に据えて、一度動き出した作戦を最前線で適宜修正するように努めていたんじゃないでしょうか。ペパロニたちに直接声をかけながら、こっちだついてこい、とやるわけです。さっすが姐さん、一生ついていきます。

 しかし、そのやり方を補えるような火力・装甲を求めてP40を入手した結果、アンチョビがその機動力と前線指揮能力を自ら失い、これまで抑えこんできた通信面の問題が勝敗に結びつくかたちでくっきり表れてしまったのだとしたら、これはなんとも皮肉な顛末でした。

 

 以上、書いているうちにいろいろ思いつくこともあって自分でも驚きましたが、これほんとにそのまま観てても面白いし、様々な視点からも楽しめる作品です。そして今回のアンツィオは、がんばるけどモノもおつむも若干足りてなくて、でも明るく前向きで爽やかで、本編のなかに挟むと準決勝戦・決勝戦のシビアさとちょうどバランスがとれる感じもじつに心地よく、アンチョビかわいい。

 あと、本編DVD第6巻のおまけ映像で大洗女子に贈られたアンチョビ缶詰ですが、あれってアンツィオが少ない予算を割いて何かお祝いをと予定していたところ、総督からの指示が伝えられるなかでペパロニたちの脳内で細かいとこ間引かれてああいうセール品を買っちゃうこととなり、しかも値引きシールさえ剥がさずに発送しちゃった、とかいう裏事情なんでしょうかね。アンチョビがあとで知ったら頭かかえそうですが、たぶん詳細は報告されないのでだいじょぶな気もします。