そして、それは、今月からも

 シスプリ20周年を記念して、なんと可憐が誕生日の9月23日にVTuberデビューする、という衝撃のニュース。

sister-princess20th.com

 ああ……長生きはするもんじゃて……。とか言いつつ、ぼくは配信界隈からずっと距離をとってきましたので、このニュースに接したときは少々わたわたしましたが。

 そんなことよりも、この可憐の姿を見てすぐに目が引き寄せられたのは、三つ編みの描写でした。あれ……? 裏編みじゃなくて普通の表編みになってる……?

 ファンの方ならご存知のとおり、可憐のこの三つ編みは、幼い頃に泣いていた自分を慰めるため兄が編んでくれた思い出の髪型です。公式ムックの天広直人公野櫻子作/電撃G'Z Magazine編集部編『シスター・プリンセス ~お兄ちゃん大好き~ Sincerely Yours』(メディアワークス 2004年)p.10-11 に、そのことがはっきり描かれています。可憐にとっては、兄と自分とつなぐ固有の絆の象徴であり、兄が自分を思いやってくれる証であり、それゆえ兄と一緒に暮らせなくなった今でも「あの日からいつもこうして……三つ編みをしています」というわけです。他の妹たちに比べて特徴がないなどと言われやすい可憐ですけど、この三つ編みという何気ない髪型に彼女の兄への想いの深さが示されているのです。そして、その編み方が裏編み(頭部から先端に向かって>>>ではなく<<<のように編む)になってるというのは、つまり兄がしてくれた編み方ということであり、それゆえに可憐はずっとこの裏編みで通してきた、というふうに理解できます。

 ところが、今回のVTuber可憐はどうやら表編みっぽい?

 

 このことをついったーで呟いたところ「三つ編み警察」「シスプリ警察」などと呼ばれもしましたが、べつに表編みだからいけないとか間違ってるとか否定したいわけじゃないのです。むしろ直後に呟いたとおり、画面のこちら側のお兄ちゃん(視聴者)が編み直すと正しい向きに戻るといった展開があったら悶絶するし、表編みにした理由が可憐の口から語られたら転げ回るし、ただたんに間違いだったとしてもそれはそれで面白い。

 もともとぼくは最初のアニメ版シスプリからこの世界に入ったくちで、そこから原作・ゲーム版・アニメ版を包摂する「シスター・プリンセス界」の拡大発展という視点を得た人間です。ちょっと原作準拠じゃない程度でガタガタ言わないし、その逸脱めいた部分からシスプリの新たな可能性が、妹たちの新たな魅力が発見できるのであれば、どんとこいというのが基本的姿勢です。なので、指摘は指摘として、VTuber可憐の今後が楽しみであることは間違いありません。

 

 などと考えていたところ。

 ふと、(あれ、でも本当に可憐の三つ編みはいつも裏編みだったっけ……?)と不安がよぎりました。ネットで画像検索してもそうだと思われるけど、原作絵をきちんと確認したわけではありません。かつてぼくがアニメ版シスプリ全作品全話を考察したさいに座右の銘としていたのは、作品内の描写を必ず確認して考察の根拠とすること、でした。それがあって初めて、世評の一部を支えていた無根拠な先入観を乗り越えることができたわけです。その戒めを自ら破るのもどうかと気づき、原作ムックと天広直人画集に掲載された可憐の髪型を確認することとしました。

 その結果、いきなり最初のムック『オフィシャルキャラクターズブック』(メディアワークス 2000年)に、普通の三つ編みの可憐絵が存在していました(p.33)。水着姿の可憐ですが、海水に浸かるとき表編みのほうがよいなどといった特別な理由でもないかぎり、この絵は明らかに裏編みでない可憐の証拠です。

 しかしこれは最初期なので設定も揺らいでたのではないか? その可能性も考えつつさらに探すと、ありました『天広直人画集2 The Art of Sister Princess』(メディアワークス 2004年)に4枚。うち1枚 (p.69)は『オフィシャルキャラクターズブック』掲載の絵と同一なので、それ以外の3枚(p.46, p.81, p.87)の可憐が表編みっぽい(少なくとも裏編みっぽくない)感じです。

 ここまでの原作絵確認を通じて、割合としてはやはり裏編みが普段どおりではあるけど、表編みもないわけではない(もちろん編んでいない姿もわりとある)、というのが、結論となるでしょう。可憐なら必ず裏編みだ、とか、表編みだと兄との思い出を無視してしまうことになる、とかいった批判は、ちょっと言い過ぎになりますね。ぼくも確認してみて自分の先入観に気づかされました。いや、やはり基本が大切。思い込みよくない。

 

 などと反省していたところ。

 ふと、(あれ、もしやアニメ版もときどき裏編みじゃなかったりする……?)と不安がよぎりました。いやいやさすがにあれだけ何度も視聴したアニメ版でそんなことあるはずが。という予断を抑えていざ確認。

 ……ああーっアニプリ(最初のシリーズ)の可憐が表編みだーっ。

 思わず口を突いて出る「そんな馬鹿な!?」しかしこれが最後の真実。リピュアはAB両パートとも裏編みでしたが、アニプリ可憐はムック掲載絵も含めて設定段階から表編みでした。いやーお兄ちゃん失格ですわー。思い込みほんとよくない。

 さてこうなりますと、VTuber可憐は原作準拠とすればわりとレアな編み方をしてるということになるのみならず、編み方ゆえにアニプリ準拠だとする見方さえ可能になってきます。当初は、原作設定を踏襲していないのでは? というあまり前向きではない疑問から始まった確認作業は、こうして新企画を様々な視点から受容し楽しむきっかけを、ぼくに与えてくれたのでした。もしかするとゲストにプロトロボや山田が登場するかも(それはどうか)。

 もちろん同じように、ゲーム版からの見方も試せますよね。VTuber可憐が語る言葉や仕草を、可憐ぽい・可憐ぽくないの二分法で受け止めるのではなく、ここは原作ぽい・ゲーム1のここを思い出す・アニメのあの場面だ・素の桑谷夏子さんだ等など、シスター・プリンセス界に存在するいろんな視点から、それぞれの立場で楽しんできたファンが反応し、お互いに交流し、この豊かな世界をさらに発展させていくことが、ぼくたち兄のつとめであり喜びなのでしょう。(追記:もちろん、この機会に初めてシスプリに出会う方々もおられますよね。その新鮮な受け止め方からぼくも気づかされることがきっとあるのでは、と思います。)

 

  そういえば可憐の三つ編みの向きについて、考察を書いてたころ利休さんが何気なく「これ逆向きですよね、お兄ちゃんに編んでもらったからかも」と指摘されてたのを思い出しました。後日の原作でそのとおり描写されてるのを見て、さすが利休さん……と驚嘆したものです。ちなみに、のちのアニメ版シスプリ考察本の解説を書いていただいたお方。

 さらにうろ覚えながら、そのあとアニプリ可憐が表編みなことに気づいて、この可憐はこれから航お兄ちゃんに(裏編みで)編んでもらえるのではないか、などと話してたような記憶が……うっすらと蘇り……。これが本当なら、ぼくは今回の一件で完全にうっかりしていたことになりますけど、こちらはぼくの記憶の捏造かもしれません。過去の日記のどこかに残してあればと思うのですが。こういうの、そのつどちゃんとまとめて文章にしておくべきですね。

 

 というわけで、ごちゃごちゃ述べてまいりましたがともかくも、今後の展開が楽しみです。アニメ版も20周年チャンネルにて期間限定で順次公開されますし、ついでにぼくの考察などもご笑覧いただければもっけの幸い。