『りゅうおうのおしごと!』第1巻メモ

 『りゅうおうのおしごと!』第1巻についての色々メモ。記憶で書いてる部分には誤りがあり得ます。実在棋士の段位・タイトルはこの文章執筆時点のものです。

 

(追記:いちばん大事なこと書き忘れてた。内弟子姉弟弟子といえば、故米長九段の家に住み込みで内弟子時代を過ごした林葉直子元女流五段・先崎学九段が有名。ただし銀子・八一と異なり、林葉が先崎より年長。林葉は女流タイトル計15期を誇る。)

 

 p.9 八一の昇段履歴、奨励会入会から四段まで6年1ヶ月。三段リーグ開始以降では相当早い。例えば渡辺棋王や菅井王位、中村王座も6年くらい。順位戦1期目は昇級できず。

 

 p.10 放尿、故米長九段が敗れたときの所業。弟子の先崎九段が師匠の後ろから胴体と愚息を支えざるをえなかった、みたいなことを先崎九段のエッセイで読んだような。

 

 p.12「若々しさを解き放」つ、谷川九段を紹介した新聞か雑誌の記事のキャプション。

 

 p.15 「将棋雑誌」、昔は『近代将棋』とか『将棋ジャーナル』とか『週刊将棋』とか……(涙)。

 

 p.16 「美しい少女」、これは八一による評価でもあると受けとってよさそう。ただしその外面的な美しさに八一が惑わされる時期は内弟子時代に滅んでる。

 

 p.17 「謎の雄叫び」、加藤九段が中原十六世名人から名人位を奪取する直前、相手玉の詰みを発見したときの奇声と伝えられるものと似てる。

 

(追記:p.17 「おおーっ!」「やった!」、NHK杯トーナメントで18歳の羽生五段(当時)が大山・加藤・谷川・中原と名人経験者4名を破って優勝したとき、その加藤戦で有名な5二銀を打った瞬間に解説の米長九段が叫んだ台詞、と似てる。つまりこの場面を現実の棋界ネタ元に置き換えると、放尿事件の当事者が放尿に喝采していることになる。)

 

 p.19 「タイトルくらい私も持ってるし」、八一からすれば姉弟子の保持数が自分より多いという劣位の痛感。しかし奨励会員の銀子からすれば、あくまでも女流タイトルだけど、という言外の留保があったものか。おそらく銀子は女流棋士界を見下しているわけではなく女流タイトルにも誇りを抱いているだろうが、両方に関わっていることによる揺れはあると予想。

 

 p.21 異名、それぞれ佐藤康光九段・田中寅彦九段・森けい二九段・中村修九段・山口恵梨子女流二段・長沼洋七段・所司和晴七段・故佐藤大五郎九段か。

 

 p.24 「えっ!?」、さすがの八一も動揺する模様。

 

 p.33 「なぜ姉弟子の希望が」、最初から入り浸る予定なので自分の気に入る部屋かどうかは大事だったということか。あるいは「ワンルーム」だと将棋を指す部屋にベッドも置かれるかもしれないなどの理由で2DKを選ばせたのか。

 

  p.37 「手が震えて」、羽生竜王の有名な癖。他の棋士も終盤はえずきが止まらないなどあり。

 

 p.65 「一人暮らしをするときの練習」、じつは二人暮らしの練習だったりしないか。手料理を食べさせようとするのは桂香を見習いつつの対抗意識か。なお致命的に料理下手なのは、あいが料理はもとより家事全般に長けている(p.59)のと好対照。

 

 p.75 『……八一に嫌われたかと思ったから』、八一は胸熱だがしかし銀子に「嫌われたかと思」うような心当たりがあるのだろうか。予想は2つ。まず、自分が八一のVSの相手としてふさわしくない程度の実力だと見なされてしまったのではないか。しかしその場合は「嫌われた」という表現はしっくりこないかもしれない。次に、前日の出来事が直接影響している可能性。これは、師匠の尿まみれズボンが二人の関係を壊すほどの凶器だったのでは、と銀子が想像しているという場合と、ズボンを我慢してでも持ち帰ってきちんとクリーニングしてくるという女子力を自分が持ち合わせていないという事実に八一がうんざりしたかもしれない、と銀子が懸念しているという場合がある。

 

 p.76 「カップ麺を食べても竜王の味」、橋本八段がA級昇級したときのツイッターポストのパロディ。

 

  p.77 「そうじゃなくて――」、に続く言葉は後に八一自身が気づくように「俺は俺の将棋を指す」ということが(タイトル保持者の責任に振り回されて)できずにいるためということだろう。ただし直前の「八一は弱くなんかないよ」という一言は、八一を励ますとともに、八一と競い合ってきた銀子自身への、まだ奨励会を抜け出せない焦燥感を押さえつけるための言葉でもあるかもしれない。

 

 p.82 「いつのまにそんな普及に熱心になったの?」、日頃(人見知りなのにp.212)イベントにかり出されつつ普及に努めている(p.109, 309)女流タイトル保持者としては、竜王なのにそんなにお呼びもかからず研究時間が確保できてる八一を羨ましく思いつつ、そんな気持ちを抱く自分を戒めていたかもしれない。あいへの対抗意識はさておき。

 もう一つ、「半分は事実」(p.76)としてもごまかしのために将棋を言い訳に用いたのは、銀子としては許せなかったのかもしれない。「将棋盤の前では」(p.83)。

 

 p.86 「ここまで感情を顕わにするのも珍しい」、銀子にとってそれほどまでにこの親密圏にあいが乱入してきたことが許せなかった、あるいはまた、あいが銀子の素の感情を向けられる相手になり得ることの示唆。

 

 p.87 「指を折ってカウント」、そういう所作は「よく見て」るのに肝心なところで朴念仁だよね八一くん。もっとも、指の動きは対局中でも相手の心中を察するために確認してるのかもしれない。姉弟子と学んできた「盤外戦術」の手がかり。

 

 p.88 「百折不撓」、木村一基九段の揮毫扇子だっけ。

 

 p.90 「姉弟子は気合いとか根性とか大好き」、重要な指摘。たぶん奨励会と女流棋戦を掛け持ちする決意の背後にも銀子自身のこれがある。「『空銀子を潰す会』」(p.193)などに立ち向かってきたという現実もある。というか重度の人見知りで家事も不得手な銀子には将棋しかないし、将棋で一緒に向き合ってきた八一しかいない。

 

 p.91 「二人で取り合っていたのだ」、最初のうちは銀子も本当に桂香を八一と「取り合っていた」のだろうが、いつの頃からか八一が「桂香さんをお嫁さんにしてあげる」と言うたびになぜ自分をお嫁さんにしないのかという嫉妬心で弟弟子を蹴ってたりしてなかったか。

 

 p.97 「プロ棋士女流棋士の違いもわかってない」、これ銀子からすると許しがたいよね。ただし、ここでの銀子はあいとまだ対局してない、つまり盤を挟んであいの本気を直に知る前の段階。

 

 p.101 「姉弟子の動機は『復讐』」、勝つまでは負けない根性の銀子の奨励会の戦績はいまいかほどだろうか。

 

 p.104 「効き手の側にだけ、皺が寄っていた」、これ後に八一が少女たちの恋愛方面での煩悶によるスカートの皺を将棋方面でのそれと誤解する展開? それとも「効き手」じゃない側に皺が寄る展開?

 

 p.106 「ソースで真っ黒」、銀子があい手製の金沢カレーを食べるときどうなるんだろう。

 

 p.107 銀子の女流棋界の情報だけなので、奨励会入会がいつなのかをあえて明記していない。

 

 p.117 「年下にはこれっぽっちも」、銀子は「姉」弟子であると同時に年下という絶妙なポジション。

 

 p.131 「貴族趣味」、佐藤天彦名人は貴族趣味だけどさすがにこうではない。

 

 p.133 「専用の空気清浄機」、窪田七段だろうか。

 

 p.135 「自分にとって」、有名な米長哲学。

 

 p.136以下 さすがに現在こんな会話は対局中やらないけど、昔の棋士はタイトル戦でも午前中などのんびり世間話していたそうで。

 

 p.141 「外へ食べに」、現在は禁止されちゃいましたね。

 

 p.152 「『神鍋? 強いよね』」、NHK杯トーナメントの対局前インタビューで佐藤紳哉七段が対局相手の豊島八段について語った迷台詞のパロディ。

 

 p.163 「俺の視線に気づく素振りすら見せず」、あいは盤面だけを見つめて八一の勝つ手順を探し続けてる。つまりあいはまだ盤外戦術を使える段階にないとも言えるし、八一の顔を見て応援するのではなくあくまで手順を探究するという将棋指しとしてのあいの素質を示しているとも言える。

 

 p.167 「(鵠)」、そうそう新聞の将棋欄にはこういう署名があるよね、と爆笑しました。

 

 p.172 「戦後のプロ公式戦で最長手数」、ついこないだの2月27日の竜王戦ランキング戦2組で牧野光則五段と中尾敏之五段が420手(持将棋)で記録更新しました。

 

 p.175 「いつも日が暮れるまで」、八一が銀子について語るとき、内弟子時代が長いから当然なんだけど、過去の回想が多い。それだけ二人の関係が深く八一に銀子が及ぼした影響が大きい一方、姉弟子の過去の姿にとらわれすぎて現在の銀子の変化を見逃しがちになる原因ともなっている。基本的に、八一は銀子と自分の関係を、これからもずっと変わらないものとして無自覚に信じている。しかし銀子は、棋士としても思春期の男女としても変わっていかざるをえない自分達に(揺れながら)向き合おうとする。この両者のずれが、すでに第1巻でも各所で描かれている。

 

 p.182 「終盤でひっくり返せば……」、この台詞を八一はどういうつもりで言ったの? 桂香のアドバイスに対するまぜっかえし程度のつもりか。さきほど記したように、八一は銀子との関係を弟子同士の確固たるものとして認識してるので、「女心」をそこまで深刻な・恋愛的なものとしては受け止めていなさそう。「姉弟子の事は俺が一番よくわかってる」(p.183)もそのへんの自信の表れであり、また将来の大きな過失をもたらすであろう錯覚。

 

 p.185 「本場の金沢カレー」、アニメ版で描かれた真っ黒なルーを見て、原作を読まない段階のぼくも「ゴーゴーカレー?」と呟きました。「麻薬でも」(p.192)は『庖丁人味平』のブラックカレーネタか。

 

 p.197 「かおってゅんだよー」、超かわいい。

 

 p.202 「師匠が横にいる事もあってか」、こういうのと同じような八一の誤解が銀子について大きな過失を生むはず。

 

 p.203 「澪ちゃんも綾乃ちゃんも楽しそうだね?」、日本将棋連盟モバイルCMの矢内女流五段「綾ちゃんも恵梨子ちゃんも楽しそうだね」より。タノシソウダネ。

 

 p.212 「根性鍛え直す」、銀子の焼き餅と対抗意識でもある。

 

 p.214 「USJに新しいアトラクションができたんだって」、銀子が八一を露骨に日曜デートに誘っている……! しかし八一は「リズムを取るために喋ってるだけ」と聞き流してしまっている。お互いの読みがまったく合わない。その理由は八一が「俺も姉弟子もそんな場所に行くくらいなら」と過去の自分達の傾向をもとに判断してるから。たしかに内弟子時代はそうだったかもしれないが、いまはなー。お前なー。もっとも、女流タイトル戦や奨励会や普及活動で大忙しのはずの姉弟子が「そんな」ことにかまけるはずもないだろう、と考えてしまうのは無理ないかもしれない。

 

 p.220 「全裸」、たしか王将戦でタイトル奪取した故米長九段が喜びのあまり全裸、弟子の先崎九段も命じられて一緒に裸踊り、みたいなエピソードがあったような。

 

 p.239 「絶対王者」、羽生竜王が20代の七冠独占前後の頃に将棋を「人間力」の勝負から純粋な論理ゲームへと解放した。もっとも羽生竜王の勝負術は以下略。

 

 p.243 「あの子にそんな面があったなんて……」、「強情な子」であることはたぶん両親とも分かっていた(明らかに母親似の性格だし)が、あくまでそれは家族の中だけのものと思っていたのかも。旅館のお客さん相手には、しつけられたとおり愛想良く振る舞ってきてたのだろうし。

 

(追記:p.244 「対局七つ道具」、窪田七段ですかね。)

 

p.254 「女性で奨励会入品」、里見香奈女流五冠(元奨励会三段)や西山朋佳奨励会三段、加藤桃子女王(現奨励会初段)と、ほんと増えましたよね。

 

(追記:p.266 「だから親しい友人も恋人も必要ない。」、そう思ってる八一こそが銀子にとっての、な? お前、な?)

 

(追記:どこかで「と断言」というフレーズを目にした覚えがあるけど見つからない。対局ネット中継の検討室コメントで「行方八段は誰々勝勢と断言」したのにそのあと逆転してしまったことに由来するネットジャーゴン。)

 

 とりあえず以上です。