戦友であるお兄ちゃまへ

 Vtuber可憐の登場で、最近シスプリのファンダムが大いに湧いてますが。ぼくは2002年あたりからファンになりましたので、今からすれば古参の一人なんでしょうけど、当時はすでに雑誌・原作からの猛者の方々が数々のサイトで膨大なコンテンツを発信されていましたし、ぼくはアニメ経由で入ってきたこともあり、新参者・遅れてきたファンとしての意識をずっと持ち続けてきています。そんな新参者が恐る恐る公開したアニメ版考察を幸い受け入れていただけたことで、ぼくもファンダムの方々と交流の機会を得ることができたわけです。だいたい2005年頃までがその山場ですかね。

 そこでやりとりさせていただいた方々の中でも、ONAさんという方は、ぼくにとって独特の存在です。花穂のお兄ちゃまであるONAさんは、『ちいさなひまわり』(略して「ちまわり」)というサイトの管理人で、花穂のファンアートをはじめとする多くの絵や日記更新、そしてネット上イベントネタ発信によって、当時のファンダムで主導的な役割を果たされていました。例えば「しんこんまもかほ」という連続ものイラスト。後に『ローゼンメイデン』をネタにして別シリーズを掲載されてましたので、そちらをご存じの方もおられるでしょう。また、「生シス」という、シスプリの妹たちの日常的な姿・(公式作品では描きにくいような)生々しい姿を描き出すシリーズ。これも後にべびプリを対象とする「生べび」へと展開されていきました。うちの考察本表紙絵に触発されて、花穂と装備(衛含む)一式の絵を描かれてたこともありましたね。さらにサイトのトップや日記でフキダシ付き妹イラストを掲示して、閲覧者に気の利いた台詞を入れさせてみたり。きょうだいたちの日常の姿、ちょっとHな姿、ちょっと尾籠な姿などなどが、ONAさんのあの暖かく柔らかなタッチで見事にまとめられていたのが印象的でした。

 

 そのまとまり感の背後には、ONAさんのバランス感覚とでもいうべきものがあったと思います。それは絵にも表れていましたし、また日記の語り方の中にも発揮されていました。例えば、シスプリファンサイトが18禁イラスト・テキストを掲載することの是非について、ファンダムで議論が起こったことがありました。そのときONAさんは、両サイドの意見を受け止めながら、サイトを通じて表現するファンとして守るべき一線というものを考え、提示し、ご自身のサイトで陽気に実践されていました。ぼくもこの議論に加わってましたが、ONAさんと意見を交わしていくことが、ぼくに自らの立ち位置を確認させてくれる大きな支えになっていたものです。そしてONAさんの言動は、潔癖であろうとしすぎず、しかしまた欲望に流されすぎず、その間でほどほどのところを大切にしてファンダムを活性化させていこうという姿勢を、一貫して保持していたように思います。このことは「オタクだから女の子を守ります」運動のときなどでも、まったく同じでした。清濁併せのむというと大げさですけど、普段おちゃらけてるようで物事の理非をちゃんとわきまえて教えてくれる近所の気の良いあんちゃん、みたいな存在だったのです。

 もっとも、ONAさんはお兄ちゃまでぼくはお兄ちゃん、マイシスを同じうしているわけではありませんし、ついったーでは現実の社会についてのお互いの考えが違うことを時折感じてもきました。しかし、同じ作品のファンとして、おのれの妹を愛する兄として、ONAさんをぼくは勝手に同士なのだと、戦友なのだと思ってきています。そこには、あの時期を共有した仲間意識と、兄度を競り合う対抗意識と、ファンダムのバランサーとしてのONAさんに対する敬意とが入り混ざっています。作品のために、ファンダムのために大切なことは何かを、ユーモアとともに伝えてくれたことで、ぼくも自分なりのバランス感覚を意識して書くようになりました。その表現の仕方は、まったく似つかぬものではありますが。

 

 いまこんな文章を綴っているのは、もしや、という話をつい先ほど拝見したためです。まだ確信は持ててませんので、語尾をすべて過去形にできずにいますが、もしも本当にそうであるとしたら、と考えたら、こうして書かずにはいられませんでした。そして、もしも、もしもそうでないのなら、V花穂登場とともにいつもの調子でネタ絵を公開し奇声を発していただけたらと望みます。そのときぼくは、こんな文章を書いてしまった恥ずかしさを「なんだよー!」とV可憐の真似でごまかしたいと思います。